山内 今後の研究にはどのような期待をお持ちでしょうか。
下村 アディポネクチンは,特定の疾患マーカーというより,生体全体の防御蛋白として働き,その血中濃度が下がると, 生体のいろいろな臓器の障害につながることから,健康度,寿命に関わってくるマーカーになることは,徐々に明らかになっていると思います。 血中濃度の測定系が普及し,より多くの先生方に患者さんや健診受診者に対して使用していただくことが,今後大事なことだと思います。 そういったことに向けての整備が必要だと強く思います。
治療に関しては,アディポネクチンはいったん肥満してしまうと血中濃度が低下してくるので,どうすれば血中濃度を保つことができるか,を検討しています。 そういう観点で,既存の薬剤をみていますし,そういったところに役立つ薬剤を開発できればよいと思います。
中野 血中アディポネクチン濃度は,1 回の測定値で何かを診断するのは非常に難しいと思います。 肥満や冠動脈疾患などで血中濃度は低下しますが,一方,心不全や腎不全まで症状が悪化すると,今度は濃度が上昇してくるからです。 ただ,経過観察マーカーとしては有用であると考えています。多くの先生方に有用性を証明していただけるとありがたいと思います。
たとえば小児外科の先生方と一緒に検討していますが,組織損傷の修復過程を示すマーカーとして回復経過をはっきり示してくれます。 この際,感染などで CRP が変動してもアディポネクチン濃度は影響を受けず,損傷の回復のみを反映した動きをします。
小田辺 山内先生たちが『Nature』にご発表されたように,特にアディポネクチンとアディポネクチン受容体が, 骨格筋のミトコンドリアの量や質を高めます。骨格筋のミトコンドリアを増やすことにより,基礎代謝を上げられれば,治療に結びつくのではないかと考えています。
ネクチンを上げる食物やオスモチンなども,おそらく関係していると思います。先生たちもそういう促進薬を開発中ではないかと思いますが, そういうものができれば,SIRT1 を活性化して PGC−1αなどから,ミトコンドリアの量をより増やして, 機能を高めて,もしかすると健康寿命を延ばしたりする運動模倣薬のような働きもするのではないかと期待しています。
山内 アディポネクチンやアディポネクチン受容体は,寿命と関連する可能性があり,抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用が認められています。 今後,さらに多くの研究者や若い臨床医の方々に興味をもっていただき,日本で発見されたアディポネクチンが, 日本が元気になる契機にもつながる大きな研究領域になったらと願っています。本日はありがとうございました。