■治療学・座談会■
肝炎ウイルス感染の現状と新しい治療法
出席者(発言順)
(司会)井廻道夫 氏(昭和大学医学部内科学講座 消化器内科学部門)
田中純子 氏(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・疾病制御学)
熊田博光 氏(虎の門病院 肝臓内科)
小池和彦 氏(東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学)

肝炎の新しい治療法

井廻 問題は,種々の因子がわかってくると,それを乗り越え治療成績を上げる方法を考えださなければならないということです。次の治療法として,どういうものがあるでしょうか。

熊田 それは,ペグ IFN とリバビリンの併用療法を超えるにはどうしたらよいかということになり,最も早く登場すると思われるのがプロテアーゼ阻害薬系で,数種類あります。なかでもテラプレビルが,世界では 2010 年 4 月に,日本では 9 月に治験が終わります。初使用の人では 75%の人が治り,ペグ IFN とリバビリンで再燃した人では 90%が治癒します。まったくウイルス反応がなかった人でも,30〜35%の人が 24 週,これまでの 1 年〜1 年半ではなくて,半年の治療期間で治癒が見込めるとのことです。

 そのほかに海外では,NS5A 阻害薬,ポリメラーゼ阻害薬などが治験を終了あるいは治験中です。今後,これらが次々と世に出てくると思われます。

井廻 その場合,効果の個人差はどうなるのでしょうか。

熊田 ペグ IFN とリバビリン,ポリメラーゼ阻害薬の 3 剤併用療法でみてみると,IL−28 のメジャーアレル,つまり,治りやすいほうの人は約 9 割が治ります。一方,治りにくい人でも,30〜40%が治ってきます。ただ,治りにくいマイナーアレルのほうで,なおかつコア 70 番に変異があり治りにくいタイプの 2 つが集まると,きわめて悪く,10%しか治りません。

 治療がどんどん進歩していくに従って,治りやすい人はより治りやすくなります。治りにくい 1 群だけが残り,今度はそれに対してどうするかという議論になります。今の IFNα,IFNβでは,IL−28 のマイナーアレルのところはある程度限界があるのではないか,そうなると IFNλという,新しいところをターゲットにした IFN が必要になってくるのではないかと思います。

井廻 ペグ IFN・リバビリンなしの,それこそ先ほどの DAA だけの治療法の可能性というのはどうでしょうか。

熊田 可能性は残されていると思います。実際に,NS3 阻害薬と NS5A の阻害薬の治験が,海外,日本で開始されています。

 ただ海外は,残念ながら 2 つの会社が開始しましたが,これら 2 剤だけでは 3〜4 割ではないかと予測され,特にマイナーアレルのほうが多い場所では 2 剤だけでは十分な治療効果が得られないだろうという中間報告が出されたため,海外は内服薬どうしの治験を中止して,3 剤,4 剤という方向に流れています。日本はマイナーアレルが少ないので,2 剤の治験が続行されています。

井廻 日本では,マイナーアレルが少ないから,2 剤でいける可能性はありますね。

熊田 海外と日本では,将来,治療法が異なる可能性があります。

田中 また,日本の場合,高齢者のキャリア数が多いため,問題になりますね。

熊田 日本は,特に高齢者をどう治療するかということが課題になっています。なんとか内服でいければという期待があります。まだパイロット試験の段階なのでわかりませんが,パイロットを 20 例やっているのは,ペグ IFN・リバビリン無効例と,ペグ IFN・リバビリンが対象にならない人,つまり高齢者なのです。そういう人たちへの治験を実施していますが,結果はまだ予想できません。

井廻 本日は,B 型肝炎と C 型肝炎のウイルス感染の現状をお話しいただきました。今後,患者数は少なくなると思われますが,治療しなければいけない患者さんは依然として多数残っているという状況です。

 B 型肝炎に関しては,治療しなくてはいけない人には抗ウイルス薬の使用が必要となります。ただし,長期に使用しなければなりませんので,今後出てくる IFN との組み合わせにより,治療を途中でやめても,完全な駆除はできないまでも,ウイルス量が増えないような状況にもっていけるかどうかが課題となります。

 C 型肝炎に関しては,一部どうしても治療抵抗性の人が残ってしまいます。今後さらに抗ウイルス薬が出てきて,効きやすいタイプの人はほとんど 100%治療できるかもしれませんが,残りの人たちをどう治療していくかというのは今後の課題ではないかと思います。有効な薬剤が開発されることを期待したいと思います。本日はありがとうございました。

前のページへ