■治療学・座談会■
CKD 診療の現状と課題
出席者(発言順)
(司会)伊藤貞嘉 氏(東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座腎・高血圧・内分泌学分野)
井関邦敏 氏(琉球大学医学部附属病院血液浄化療法部)
渡辺 毅 氏(福島県立医科大学第三内科)
斎藤能彦 氏(奈良県立医科大学第一内科)

CKD 診療の現状

■罹患率・患者数ともに増加

伊藤 慢性腎臓病(CKD)に関しては,『エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2009』と『CKD 診療ガイド 2009』が出版され, CKD の普及活動も徐々に活発になってきています。さらに,日本慢性腎臓病対策協議会(J−CKDI)が組織され, CKD の重要性を一般の人々にも認識してもらうために,いろいろな活動が行われております。 本日は,この CKD を取り上げ,わが国の現状や課題について議論していきたいと思います。 まず,疫学的な観点から,井関邦敏先生にお話しいただきたいと思います。

井関 日本透析医学会の 2009 年末の調査結果では,透析患者総数(有病率)は人口 100 万人に対し約 2500 人, ほぼ 400 人に 1 人の割合でした。ただ,75 歳以上の男性では約 100 人に 1 人となり,女性の約 200 人に 1 人と比較し,2 倍になっています。 罹患(発症)率も導入時の平均年齢も上がっていますが,患者数はまだ増加しています。 透析患者総数に関しては,導入数と死亡数の推移からみて何年か後には逆転し,透析患者総数は減少に向かうと予想されています。 それでも,年間の導入患者は 36000〜40000 人であり,経済的のみならず,看護・介護の面からも相当な負担となります。 透析導入を減らす努力が必要だと考えています。

 沖縄での調査では,健康診査(健診)を受けた CKD ステージ 5 の患者の 9 割近くは 7 年以内に透析を受けています。 透析導入時の平均推算糸球体濾過量(eGFR)は 8 mL/分/1.73 m2でした。

伊藤 宮城艮陵 CKD 研究によると,ステージ 5 の患者は年間約 50%で透析導入となっています。

井関 健診受診者を調べたところ,クレアチニン値 2 mg/dL を超えた時点から,透析導入まで平均 64 か月,約 5 年でした。

伊藤 患者数についてはいかがでしょうか。

井関 久山町研究では,1974 年から 10 年ごとに調べられていて, eGFR 60 mL/分/1.73 m2未満の CKD ステージ 3,4,5 が,男女ともに 28 年前は 5〜6%でしたが,現在 10%を超えています。 ステージ 5D だけではなく,そのもとになるステージ 3,4 も確かに増えています。

渡辺 日本腎臓学会の疫学ワーキンググループで,8 つの一般住民健診のコホート約 90 万人のデータを解析した結果,CKD のステージ 1〜5 は全体の 11%程度を占めました。これは国民健康保険の健診結果がほとんどで,年齢がやや高齢に偏り,多少バイアスがかかっているとは思います。ただ,米国の国民健康栄養調査(NHANES)でも全体の約 10%,オーストラリアなどの先進国の調査でもほぼ 10%を超えていて,日本も 10%を超えていると考えてよいと思います。

■メタボリックシンドロームと関連

伊藤 CKD が増加している背景については,いかがでしょうか。

井関 高齢者人口が増えれば,eGFR の低い人が増えるはずです。米国の人口分布に補正して比較すると,ステージ 3,4 の患者はほぼ同率でした。日本は,これから団塊の世代が高齢者となります。それで,ステージ 3 が 8%程度となります。日本は高齢者が多いのですが,米国でも 10 年前に比べ約 3 割増加しているので,その背景には糖尿病やメタボリックシンドローム,抗菌薬や NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)といった薬剤使用など,さまざまな環境要因が加わっていると考えています。久山町研究の結果も,メタボリックシンドロームを背景として,腎機能の悪い人が増加しているという解釈がほぼ成り立ちます。

渡辺 茨城県の健診をフォローアップした疫学研究によると,蛋白尿の出現率には糖尿病と高血圧の寄与が大きく,肥満,脂質異常症,喫煙と続きます。現在の CKD の主たる原因は生活習慣病であると考えられます。世界的にみても,CKD の多い地域は糖尿病の発症率が高く,アジアで糖尿病の今後の増加が見込まれているので,CKD の増加も予想されますね。

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