■治療学・座談会■
抗体療法がもたらしたインパクトと今後の課題
出席者(発言順)
(司会)竹内 勤 氏(慶應義塾大学医学部リウマチ内科)
山中 寿 氏(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
西本憲弘 氏(和歌山県立医科大学免疫制御学講座)
渡辺 守 氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学)

新たな薬剤とその使用法の確立に向けて

■新しい標的の模索

竹内 TNF 標的,IL−6 標的製剤の 2 つを使ってもまだコントロールできない患者はおられます。新たな標的である B 細胞や T 細胞に対する薬剤への期待はいかがでしょうか。

山中 T 細胞に対しては abatacept,B 細胞については CD20 に対する抗体が臨床応用されています。実際,TNF 製剤の不応例に対して,欧米では適応がとられ,有効性の高さが認められています。

 T 細胞あるいは B 細胞を,RA の早期で抑えることができれば,治癒の可能性がみえてくるかとも思います。現在の使用法では TNF 阻害薬を発症後すぐに投与することには無理がありますが,今後はかなり早い時期の使用も検討されるべきかもしれません。

西本 そのとおりだと思います。武器はたくさんあるほどよい。しかも,TNF,IL−6 以外の標的として,免疫に直接関わる T 細胞や B 細胞,抗原提示細胞をコントロールできれば,免疫全体がコントロールできるようになると思います。海外ではすでに CD20 抗体,リツキシマブが承認されています。また,ocrelizumab も開発が進んでいます(日本では開発が中止されました)。

竹内 クローン病などでは,T 細胞や B 細胞標的の治療法はどうなのでしょうか。

渡辺 クローン病に関しての大規模な治験は行われていません。潰瘍性大腸炎に関して,CD3 と CD25 の T 細胞の結果が 2009 年に出ましたが,両方とも良くありませんでした。B 細胞についても,あまり行われていません。T 細胞や B 細胞を標的とした治療は少し難しいと思います。

竹内 リウマチでも,CD4 に対する depleting 抗体を使ったトライアルは失敗しています。ただし,abatacept のように,T 細胞の活性化を抑えるような製剤には効果がありました。今後,クローン病でも,炎症性サイトカインの上流にあるようなところを標的とした治療が考えられています。VLA−4 に対する抗体,natalizumab は,クローン病ではどうだったのでしょうか。

渡辺 腸管でのα4 インテグリンに対する抗体は,クローン病に対する 4 つ目の生物学的製剤として米国で認可されています。これは治験でも有効で,おそらく抗 TNF−α抗体製剤,インフリキシマブに匹敵する力があると考えられています。ただ,α4 インテグリンの natalizumab は,治験中に 1 例の PML(進行性多巣性白質脳症)の患者が発生したために,治験が一時中止されました。再開されたとはいえ,認可時の使用対象は TNF 阻害薬不応例のみとなり,劇的に市場が狭まりました。しかし,インテグリンに対する抗体は有効です。β7 インテグリンに対する抗体も検討されていて,これも有効であると報告されています。

竹内 natalizumab は多発性硬化症でも承認されています。使用開始後に PML が出て,いったん取り下げられましたが,効果がきわめて高いので,復活して承認されたのです。

■投与対象の限定

竹内 新たな標的をもつ製剤が多数開発されれば,患者個々に合った製剤を選び,いわゆるオーダーメード医療が実現しそうです。このあたりを,期待を込めて一言お願いします。

西本 現在,末梢血の遺伝子発現パターンから効果予測を検討しており,ある程度可能になってきました。これがすべての生物学的製剤に応用できるのであれば,末梢血を事前に採血するだけで,最も効果が期待できる薬剤を選択できると考えています。それが,患者にとっても,医療経済学的にも,メリットが大きいと思います。

山中 生物学的製剤に関しては,これだけ検討されているにもかかわらず,あまりきれいなデータは出ていないという印象があります。ですから,現在行われているような一塩基多型(SNPs)のレベルでは反応性の予測は難しいかもしれません。

 有効率をあと 30%向上させることを目的とした戦略で遺伝子の組み合わせを選んでいくという考え方をしないとだめなのではないでしょうか。

竹内 リウマチ治療は,いまや寛解をどれくらいのスピードで導入するかというところまで高まっています。3 年で寛解になっても,その間は骨が最も壊れてしまう時期なので,発症後 9 か月目までに寛解にもっていこうと努力しています。

渡辺 クローン病も同様な考え方で進んでいます。今までの抗 TNF−α抗体製剤の有効性のデータは平均 9 年くらい経った,すでに炎症,潰瘍だけではなく,狭窄や瘻孔という合併症を起こした患者に対して使われた結果のものでした。RA と同様に,発症後,2 年以内であれば 50〜70%の人は潰瘍,炎症だけで治まっているという自然寛解も考えられるので,2 年以内の使用に限ったらどうかと考えられています。

 2009 年の先ほど出ました Leuven コホートでは,mucosal healing が起きれば,20%の患者は TNF−α阻害薬の使用を中止でき,さらにその中止した 20%のうち,40%の患者は免疫調節薬も中止できたと報告されています。クローン病でも,早期に強力な治療をすれば良い結果が出るかもしれません。ただし,どの患者に生物学的製剤を早く使うべきかは結論が出ていません。

竹内 原因不明と言われていた炎症性疾患について,炎症性サイトカインを抑える抗体療法により,治療が不要になるくらい改善する患者がいることが明らかになりました。抗体療法には影の部分もありますが,それを補っても,余りがあるくらいのインパクトをもたらしたことになります。抗体療法のさらなる発展に,皆さま,ご協力いただければと思います。どうもありがとうございました。

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