三嶋 増悪時に注意するべきことについて,おうかがいできますか。
長瀬 COPD の増悪は,予後に直結しています。これは欧州で行われた試験結果で,1 年に 3 回以上増悪を繰り返す患者は予後が悪いと報告されました。 では,その増悪をどう診断したらよいか。日常診療の現場では,喀痰の増加,喀痰の色の変化,咳回数の増加などで診ています。 患者は高齢者が多いので,増悪が単なる風邪ととらえられることも多いですが,COPD 患者に限らず,高齢者で風邪は要注意です。
三嶋 増悪が頻繁に起きるほど病態が悪くなり,予後も悪くなるという意味でしょうか。
長瀬 はい。呼吸機能は増悪のたびに低下し,改善したとしても増悪前ほどには戻らないとされています。
三嶋 階段状に悪くなるということですか。
長瀬 そういうことです。
三嶋 増悪時の対応について,実際にはどうされていますか。
藤本 増悪時には末梢気道を中心として炎症が増強し,それが原因で呼吸困難とガス交換障害の増悪が起こります。 気管支拡張薬の投与あるいは追加投与が必要になります。 もう 1 つは,細菌感染が増悪の原因になることもあるので,痰が増えたり,膿性痰になったりした場合には抗菌薬を投与しています。
また増悪の程度が中等症以上,あるいは安定期の重症度が重症以上の COPD の増悪では,ステロイド薬が有効です。 早期の回復,呼吸機能の改善,治療失敗の減少,入院期間の短縮など,効果が認められています。 推奨されているのは経口ステロイド薬を 1日 30 mg,7〜10 日間の内服です。日本人の場合にはもう少し少量でもよいかもしれません。長期にダラダラとは使わないほうがよいです。
また,種々の合併症を起こしますから,たとえば心不全の場合には,利尿薬の使用や心不全に対する治療が必要になります。 重篤になったら人工呼吸管理,NPPV を早期に導入するのが最善かと考えています。
三嶋 診療所から病院へは,どのあたりで紹介すべきなのでしょうか。
藤本 かなり重症になってから紹介される先生方もおられます。 患者さんは,紹介時にすでに PaO2が 50 mmHg といったように,重症な低酸素血症の状態であることもあります。 やはり治療が遅れると,回復も悪いです。そして,なんとか回復したとしても,呼吸機能はかなり低下してしまいます。 呼吸不全に陥っている場合や,初期治療にて症状の改善傾向がみられない場合,努力性呼吸を呈している場合,安定期の重症度が重症以上の場合には, 早めに病院へ紹介していただけるとよいと思いますし,連携病院とパスをつくっておくとよいと思います。
三嶋 COPD 診療・研究の将来展望や,若い先生方に対するご意見など,うかがえますか。
木村 グレリンについて追加させていただきますと, たとえば心不全の治療に使用されている ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)は,心不全患者ではすでに代償的に分泌され高値になっている一方で, ANP の補充は心不全の有効な治療法として位置付けられています。 ですから,投与するグレリンは,補充療法としての意味合いを有すると思います。 また最近では,内因性グレリンを高めることによって,抗炎症作用,食欲増進作用,交感神経抑制作用,さらには,筋蛋白の減少, 骨粗鬆症などの改善を図る取り組みが行われ始めており,注目すべき治療法と考えられます。
長瀬 COPD と併存症について,最近,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)との 関連が報告されています。
また,COPD に関しては臨床的見地からも,未開拓な分野が多く残されているので,ぜひとも COPD の研究者の増加を期待しています。
藤本 COPD 患者はわが国で約 530 万人と推定されていますが,実際に治療を受けている患者は約 4%です。 さらに実地医家の先生方は,COPD と診断されても,禁煙指導までで,薬物治療までなかなか入られません。 UPLIFT 試験では,中等症以上の COPD では,早期の薬物治療の導入が増悪を予防し,死亡率を減らすというエビデンスが出ています。 早い段階での治療開始が重要かと思われます。
三嶋 循環器疾患や消化器疾患をもつ患者は,COPD の合併率が有意に高いことが明らかにされています。 読者の先生方には,ご自身が診療されている他疾患の患者さんを COPD の合併という観点から見直していただけたらと思います。 “COPD is a preventable and treatable disease.”と,2006 年以降の GOLD ガイドラインに記されています。 これは将来への期待感も含まれており,若い先生方にはぜひ,COPD 治療の未来を開いていただきたいと思います。本日はありがとうございました。