■治療学・座談会■
多価不飽和脂肪酸摂取と健康増進・疾病予防
出席者(発言順)
(司会)寺本民生 氏(帝京大学医学部内科)
中村丁次 氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
多田紀夫 氏(東京慈恵会医科大学附属柏病院総合診療部)
小川佳宏 氏(東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学分野)

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

寺本 本日は,日常生活に非常に身近なテーマとして,特に魚油に多く含まれている多価不飽和脂肪酸について, お話を伺っていきたいと思います。 この多価不飽和脂肪酸の歴史は古く,摂取を積極的にすすめていた時期もある一方で,否定的にとらえられたこともありました。 最近,疫学研究などによりデータが集積し,摂取の重要性が病態栄養学的に確立されてきました。

 まず,多価不飽和脂肪酸とはどういう物質であるのか,中村丁次先生,簡単にご解説いただけますでしょうか。

中村 脂肪とはグリセリンと脂肪酸がエステル結合をしているものです。 グリセリンのもつ 3 つの炭素に脂肪酸が結合していて,この脂肪酸の種類が脂肪の性格を変えています。 たとえば,18 の炭素をもつリノール酸は,その末端にカルボキシル基(COOH)がついていて,この炭素に手が 4 つあります。 その手が全部開いて結合しているのが飽和脂肪酸(saturated fatty acid:SFA)で, いくつかの手が閉じていて二重結合があるものが不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid:UFA)です。

 植物性に多い不飽和脂肪酸に対し,飽和脂肪酸は動物性脂肪に多く含まれています。 バターやラードなどの動物性油脂は,常温で固まるために,血管中でも固まりやすく動脈硬化を発生させるのではないかという考えが生まれました。 この素朴な着眼点からスタートし,固まらない植物性油脂の摂取が推奨され始めたわけです。

 これを科学的に検証したのが,1957 年に設立されたニューヨークの Anti−Coronary Club です。 血清コレステロール値の低下と動脈硬化の発症予防との相関について検討し, その過程で,不飽和脂肪酸のなかでも二重結合が 1 つのものと 2 つ以上のものでは性格が異なることが明らかになりました。 1 つのものを「一価不飽和脂肪酸(monounsaturated fatty acid:MUFA)」と, 2 つ以上のものを「多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)」と区別するようになったのです。 その後,PUFA でも二重結合の位置が異なることから,海の物に多いとされる n−3(ω−3)系 PUFA, 陸の物に多いとされる n−6(ω−6)系 PUFA と分類されるようになりました。 そして,それらに積極的な生理機能があることがわかり,このころから PUFA が注目されてきました。

 また,4 つの脂肪酸(SFA,MUFA,n−3 系 PUFA,n−6 系 PUFA)にはそれぞれ重要な役目があり, すべてが必須なのではないかともいわれています。飽和脂肪酸の摂取と血清コレステロール値との正相関が認められ, 悪者として扱われる時期もありましたが,これらにも欠乏症と過剰症を起こす境界があり,摂取の幅を推奨していくべきだと考えています。

 ビタミンも当初,15 種類が「ビタミン」として一括りにされていましたが, 現在はそれぞれに特異的な機能があることがわかってきています。その変遷と似ているところがあるかと思います。

寺本 SFA は生体内で合成することができ,PUFA は合成できないので,“必須”という考え方が出されたと聞いていますが, その認識でよろしいのでしょうか。

中村 体内で合成できるとされる飽和脂肪酸でも,欠乏すると全体的なエネルギーが不足して, 不足状態が招く疾患を発症したり,ビタミン A,D,E,K が吸収されにくくなり脂溶性ビタミン欠乏症を起こしやすくなります。 外から摂取しないと欠乏症を起こすのが栄養素です。 このなかでも合成経路がないものを,特に“必須”と言っていますが,合成されても,それだけでは不十分なものもあります。 つまり,この定義があいまいになりつつあります。

次のページへ