■治療学・座談会■
がん診療における放射線治療の役割
出席者(発言順)
(司会)中川恵一 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線治療学)
甲斐崎祥一 氏(東京大学大学院医学系研究科腫瘍外科)
宮川 清 氏(東京大学大学院医学系研究科放射線分子医学)
江口研二 氏(帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科)

適切な情報提供の重要性

■患者に対する放射線治療施設の紹介

中川 実地医家や勤務医の先生方がご自身の患者さんに放射線治療医を紹介するにあたり,情報収集がなかなか難しいと思います。 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)のホームページには,都道府県別に認定医のリストが掲載されています。紹介の際には,このリストからお近くの病院をご選択いただければと思います。

 また,手前みそになりますが,東大病院はセカンドオピニオン外来を自由診療で行っていて,セカンドオピニオンを求められた数は私が最多です。 患者側に放射線治療への関心が高まってきたことの現れかと思います。 ただ,どこに行ってよいかわからないから,私の所に来るのです。放射線科医は,セカンドオピニオンを求められることに比較的慣れていますね。

江口 そのことにも関連することですが,患者さんやご家族の思いを考えると,メスをふるってもらった人に命を預ける, つまり「先生,どこまでも診てよ」という思いが強いように思います。そういう人々に対して,手術をした外科医は決して見捨てるわけではないことを理解してもらう必要があります。 種々の専門家の知恵を借りて,うまく機能や役割を分担する“チーム医療”が必要となることを患者・家族に啓発することも大事なことです。

中川 そうですね。少々難しいとは思いますが,そういう治療は専門施設で行いながら,もとの外科の先生に診てもらうことが, たしかに患者さんが望むことだと思います。直接ご自身が手を下さなくても,「たまに来て,ようすを聞かせてくれよ」というように言っていただくことが,非常に重要かと思います。

江口 一般の方々への啓発も,併行する必要があるということですね。

■若手医師の関心の喚起

江口 若手の先生方が熱意に燃えて放射線治療を専攻したと想定します。さて現場では,いろいろな臓器の患者が入れかわり立ちかわり来て,言葉は悪いですが, 床屋さんのような状態,「今日はこの髪形で」,「1 日何人こなさねばいけない」など,ノルマをこなす仕事しかできないと, 若い医師は放射線治療自体にあまり魅力を感じなくなってしまうのではないかと思います。

 西日本がん研究機構(WJOG)では,数年前から,米国 RTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の会議に放射線治療医を派遣しています。 若手の先生が,英語に苦労しながら,その場の雰囲気を見てこられます。帰国後のレポートを見ると,たいへん興味深いことが行われており, かなり刺激されて帰ってきます。そういう面白さも合わせて仕組んでいかなければいけないという気がしています。

中川 おっしゃるとおりです。がん登録は,実は放射線治療から始まりました。 放射線治療は,外科などと比べると明らかに数値化しやすいので,臨床試験に向いています。日本発のエビデンスも今後増加すると思います。

宮川 そうですね。若い人が何をおもしろいと感じるかという視点は重要です。私もそういう研修医の教育をする機会があるたびに, どういう志向で,どこにひかれるかという点を聞いてみたりしています。

 工夫の例を言えば,臨床試験の重要さ,そういう科学的なことを行うおもしろさ,知的作業の興味深さなどを,身をもって示していく必要があります。 雑務に近い仕事だけが目につくのは良くないので,本来あるべき姿を若い人に見せていただきたいと思います。

中川 いずれにしても,医療は患者さんのために行っていることで, それが外科,放射線科,内科という垣根にとらわれるのは本来おかしいことです。 患者さんのために 3 者がチームを組んで,そのなかで放射線治療医も十分な役割を発揮していかなければいけません。本日はありがとうございました。

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