■治療学・座談会■
高血圧治療ガイドライン2009改訂のポイント
出席者(発言順)
(司会)荻原俊男 氏(大阪府立急性期・総合医療センター)
菊池健次郎 氏(北海道循環器病院循環器内科)
松岡博昭 氏(宇都宮中央病院)
楽木宏実 氏(大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学)

JSH 2009 発表までの経緯

荻原 2009 年 1 月 16 日に『高血圧治療ガイドライン 2009』(JSH 2009)が発表されました。 副作成委員長として改訂に関わっていただいた菊池健次郎先生から,JSH 2009 作成のご感想をお願いしたいと思います。

菊池 最も強調させていただきたいと思う点は,作成過程を透明化して公平性を保ち, 作成委員の自由な議論のみならず,一般医家の方々にも忌憚のないご意見をいただいたことで, これまでにないすばらしいものになったと考えています。今後の日本におけるガイドライン作成の手本になるのではと思います。

 また利益相反についても,これまで以上に配慮されていたと感じています。

荻原 松岡博昭先生は JSH 2004 の改訂を決めた際に理事長をされておられ, 作成委員会のコアメンバーでもいらっしゃいました。同様に,ご感想はいかがでしょうか。

松岡 JSH 2004 の発行後に,国内外でいろいろなエビデンスが出て, そろそろ改訂が必要だという気運が盛り上がりました。2007 年夏の理事会で改訂が決定されましたので, 発行まで驚くほどの速さで順調に進んだと思っています。

荻原 今回,いろいろな新しい工夫をしていますが, そのへんの紹介も含めて,事務局長の楽木宏実先生,いかがですか。

楽木 作成過程で最も重視したことは,透明性の確保です。過去のガイドラインでは, 日本高血圧学会ではなく作成委員会のガイドラインだという声が一部に聞かれました。 それで,作成過程について,いかに透明性を高めるかが課題となっていました。

 特に作成委員を決める段階で,多くの先生方からアドバイスをいただきました。 リエゾンの学会についても,いろいろなご意見をいただき,多数の学会の先生方に参加してもらいました。

 改訂作業が始まってからは,E メールで意見交換を行いながら案を練っていきました。 その間,メーリングリストでのやり取りは数百回を超えています。 その後,医師会の代表者や学会員の先生方にも案の段階でご覧いただき,多くの指摘や意見をうかがいました。

 そこでできあがったものを日本高血圧学会としての案とし, 第 2 案とよんで,インターネットで一般に公開しました。これが大きな特徴ですが,IT 技術により双方向のやり取りを行い, 実地医家の先生方や,高血圧診療をされている学会員以外の先生方から意見をきく機会をもちました。 それによって,実地臨床に非常に即した内容になったかと思います。誤解が生じやすい内容についての指摘や意見に対し, Web で回答したり,ガイドラインに反映したりすることができました。

 また,患者代表の方にも加わっていただきました。その結果,患者さんにきちんと服薬していただくことを, 私どもはこれまで「コンプライアンス」という言葉を用いていましたが, 患者さんが医師のパートナーとして治療に参加するという意味を込めた「 コンコーダンス」という新しい概念を提示してもらいました。 より患者の立場に立ったガイドラインが作成できたのではないかと思っています。

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