山本 内視鏡治療の将来展望について,お願いできますでしょうか。
矢作 ESD は,今後も確実に進歩すると思います。ナイフひとつとっても,現状は非常に使い勝手が悪く相当修練しなければ使えませんが, 世界各地で開発が進んでいます。近いうちに,より安全で使いやすい次世代ナイフが現れることはまちがいありません。
それに加えて,私自身,トラクションをかけるディバイスを開発しています。剥離するときには,粘膜下層をきちんと視認でき, なおかつテンションがかかる状態が非常に有用なのですが,それを実現できるディバイスがあまりありませんでした。 それを簡便に,内視鏡に外付けして引っ張れるようなものを,近々市場に出せるような状況です。そうなれば,ESD の技術的なハードルも下がるでしょう。従来,大問題であった出血や穿孔のリスク, 治療時間の長さなどをほぼすべて解決できるようになるのではないかと,期待しています。
さらに将来展望では,NOTES(経管腔的内視鏡手術)が世界的に注目されています。 日本では,たとえば粘膜下腫瘍(SMT)などで少し大型のものを,胃内からアプローチして全層切除し, できるかぎり切除ラインを小さくして機能を温存するということが,腹腔鏡との併用で可能になると思われます。 そうなれば,治療が困難であった潰瘍瘢痕症例なども,全層切除という糸口が開けてくると思っています。
工藤 腹腔鏡はようやく一般化してきました。NOTES については,「傷がわからない」というメリットが本当に日本人に向くのかどうか, もう少し様子をみないとわかりません。ただ,ブラジル,インド,米国では行われており,世界のすう勢としては増えていますね。
山本 現状では,興味が先行しているきらいがあります。有用性の検証はこれからです。
藤田 ハイブリッド法といいますか,腹腔鏡との組み合わせ, そういった段階から先行して行われて,社会が取捨選択を行っていくのかなとも思っています。
山本 完全な NOTES は技術的にまだ難しいように思いますが, 臍から細いものを 1 本入れて牽引するだけで,ずいぶんと状況が変わります。 臍の中だから傷としてもほとんど残らないので,そういう補助を使えば,実用段階に来ていると考えています。
藤田 NOTES において EUS は,アプローチルートの決定,安全確認など, そういった意味でおそらく大きな役割を果たすと思います。関連のディバイスについても, 海外の学会で種々の試作をみましたが,管腔をまさに突破口にして腹腔内に入ることは,現実的な話になっているという印象を受けています。 そのとき,消化管壁の向こうに何があるか,どういう位置関係かがわかる EUS のようなガイドがあれば,非常に心強いのではないでしょうか。EUS は必須の道具になると思っています。
山本 ディバイスの開発に関しても,海外ではかなり進んできています。 NOTES 専用のプラットフォームや処置具の開発により操作性が良くなっていくと思います。 さらに,コンピュータを駆使したロボティックスもかなり出てきていますね。
矢作 マルチジョイントを使い,それを自由にコンピュータ制御できるシステムで, 操作はテレビ画面をみながらジョイスティックで行うという,すごい世界が開けてきつつあります。
藤田 直接,漿膜を破らなくても,癒着さえなければ, 内視鏡の際にも NOTES のいろいろなディバイスの転用や技術の応用が図れるかと思います。NOTESの動向は注意深く見守りたいと考えています。
藤田 胆膵癌に関しては,消化管と異なり,局所治療で十分だという時点で病変の発見ができていないことが最大のネックになっています。 MRCP(MR 胆管膵管造影)や PET など,より侵襲の少ない診断法が登場しつつあります。 そういった発展を通じ,消化管で言う早期癌に相当し, 内視鏡を用いた局所治療で間に合うような病変をしっかりととらえられる時代に備えて,準備を怠りなくしていくということが,現状でできるところかと思っています。
さらに,腫瘍細胞に親和性をもった薬剤その他の方法の開発が,今後の方向のひとつだと考えています。 そこでも,局所の観察には EUS が最も優れています。そういった道具,処置具のデリバリーのために,EUS がさらに製品としてブラッシュアップされ,そして普及することも必要かと思います。 EUS は,現行では十分にトレーニングを積んだ医師であれば,その性能を最大限に引き出すことが可能ですが, 万人が使いこなせるには十分なレベルに決して達していないので, より多くのメーカーが参入して,改良,開発を進めてもらえればと願っています。
工藤 日本が,消化器診断学においては世界のトップを走っています。 内視鏡診断も同様です。ところが残念なことに,日本の若い医師たちは,この消化器領域をあまり希望してきません。 この問題は,先ほども出たように,インセンティブがないことに原因があります。
藤田 いま小児科,婦人科が取りざたされていますが,消化器内科も次の絶滅危惧種として非常に心配しています。
工藤 たとえば ESD の技術をもつ専門医のほとんどは,日本人なのです。 それなら,日本の専門医が世界中に行って治してあげればよい。日本をアピールする良いチャンスではないでしょうか。 日本から発信して,世界の診断学と治療学のルールを変えていくことが重要ではないかと考えています。
藤田 患者さんの QOL を向上させることに一生懸命になってきました。 われわれ医師たちの QOL も上げ,余力をもって現状をきちんと把握し,さらに将来に向けてより良い医療に邁進するというモチベーションを保てるような環境が必要です。
山本 その環境が将来の進歩につながり,ひいては患者さんへのフィードバックにもなりますね。貴重なお話,ありがとうございました。