山本 従来,開腹などの外科手術を必要とした疾患に対し,内視鏡治療により低侵襲に治療ができるようになりました。 内視鏡治療が進歩した背景には,内視鏡診断の進歩があります。また逆に,治療が進歩したことから,診断の意義がよりいっそう大きくなっています。
工藤進英先生,内視鏡診断の進歩について,口火をきっていただけますでしょうか。
工藤 私は大腸が専門です。従来の診療の流れは,病変を発見し,染色して組織像を確認し, その後ポリープ切除,生検という順でした。特に隆起性病変は,最初に診断と治療を兼ねてポリペクトミーを行い,摘出したものを病理が判定し, 治療方針を決めていました。そのため,結果的に,家族性大腸腺腫症や発育の遅い異型の弱い腺腫などもすべて摘出することになってしまいました。 それでは,どうしてもオーバーポリペクトミー,つまり過剰治療になってしまうのではないかとの懸念がありました。 当時はそれが常識でしたが,顕微鏡や実体顕微鏡でみるような像を生体中で得られはしないかと考え,研究を始めました。 約3 年後の 1993 年に,電子スコープを用いた拡大内視鏡が実現しました。
この拡大内視鏡により診断レベルが格段に上がり,ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術(EMR)の技術へと発展していきました。 その後,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が開発され,少し遅れて,胃や食道にも拡大内視鏡が導入されていったのです。拡大内視鏡により正確な診断が可能となり, 適切な治療を行えるようになりました。
山本 ESD の開発により,腫瘍の確実な治療を行えるようになり,上部消化管でも診断の重要性が増したのではないかと思います。 矢作直久先生,いかがでしょうか。
矢作 まさにそのとおりです。ESD をもってすれば,ねらった範囲をすべて切除できます。 そして,大きなものでも切除できてしまうので,もしそれが適応外であれば,過剰治療になってしまいます。 そういう意味でも,大型の病変や範囲が不鮮明な病変は,きちんと拡大内視鏡を使用し,表面構造と血管異型をみて切除範囲を診断することは非常に重要で,最近の常識になっていると思います。
また ESD とほぼ同時期に,ハイビジョンによる高画質な内視鏡が日本で普及したことも, 内視鏡診断,治療が広く普及する追い風になったと思います。以前は,画質が悪くて, 平坦な病変や境界不明瞭な病変には気づきにくく,見逃されていた可能性があります。それらを拾い上げることができるようになりました。
strong>山本 機器の進歩によって,ファイバースコープの時代と比べ,内視鏡画像が格段に改善されました。 加えて特殊光,つまり NBI(narrow band imaging)システムや FICE(Fuji Intelligent Color Enhancement)システムなど, 狭い領域の光を用いて病変や血管構造をより強調できるようになり,診断力が向上しました。
矢作 それらは非常に大きな進歩です。胃は管腔が広いので,当初 NBI をスクリーニングに用いることが試みられました。 しかし,暗すぎてよくみえないという理由で失敗しました。 しかし,術前診断として拡大内視鏡と併用すれば,境界診断に非常に有用です。
NBI が最も影響を与えたのは中・下咽頭と食道でしょう。以前は,ヨードで染めないと不明瞭だったものが, NBI によりブラウンスポットまたはブラウンエリアとして容易に認識できるようになりました。特に精査に全身麻酔が必要だったハイリスクの患者さんには有用だと思います。
山本 われわれはよく FICE を使っています。NBI は拡大内視鏡と併用すると血管パターンを非常に強調してくれますが, FICE には光量がかなり明るく保たれるという特徴があります。胃の中でも病変を明るく強調した画像が出せるので,精査としてのみでなく,拾い上げ診断にも適していると思います。 経鼻内視鏡でも,FICE で明るくみえます。藤田直孝先生,胆膵系ではいかがでしょうか。
藤田 胆膵系は,端的に言えば,拡大内視鏡ができませんので,NBI の有用性を臨床にいかせる段階に至っていないと思います。 また,内視鏡を胆道や膵臓に挿入するとなると,対象が非常に限定されてしまいます。それこそ 10 年の単位で,消化管には遅れをとっていると思います。
工藤 欧米で「大腸には NBI はあまり役立たない」という論文がかなり出ています。 欧米の研究者たちは,単に NBI で存在診断が可能かどうかをみているだけで,拡大内視鏡と併用していないのです。 さらに欧米の医師たちは,血管パターンとピットパターンを混同しており,とんでもない議論になってしまいます。
山本 より拡大率の高いエンドサイトスコープの開発はどこまで進んでいるのでしょうか。
工藤 それは,500 倍の拡大率で,生体中で生きたままの腫瘍細胞をみようという試みです。 昭和大学横浜市北部病院の井上晴洋先生が以前から研究されていたもので,食道,胃,大腸の順で行っています。 画像が予想外に良好なので,現在,エンドサイトの分類を病理と連携して行っているところです。
山本 確かに,メチレンブルーとクリスタルバイオレットの二重染色を行うと,本当に組織像のような画像が得られますね。
工藤 ですから,病理の勉強が必要になります。外国から見学に来た研究者も画像の鮮明さに驚いています。
藤田 OCT(optical coherence tomography)や共焦点内視鏡(confocal endomicroscopy)などと比較して,エンドサイトスコープはどうでしょうか。
工藤 エンドサイトスコープのほうが圧倒的に良いのではないかと思っています。 エンドサイトスコープは,500 倍でも非常にピントが合わせやすいのです。 なぜなら,接触型なので,被写体が動くと一緒に移動するからです。 ただ,画期的に臨床に役立つという強みがないので,「そんなことよりも切除したほうがよいのではないか」という意見がかなりあります。 そこが,エンドサイトスコープの臨床応用で問題になるところですが,まずは正確な診断をと思っています。
矢作 臨床的意義という面では,共焦点内視鏡では焦点深度を変えられるというメリットがあると報告されています。 粘膜下層(sm)浸潤がありそうなところの組織像も得られるので,焦点深度を変えることによって,粘膜(m)癌だけでなくて, sm 癌かどうかという情報も,将来的には得られるのではないかと考えられます。
藤田 confocal に関して,私は標本での経験しかありませんが, in vivo で,心拍動や呼吸による動きがありながら, sm の微小浸潤の有無などに焦点を合わせることは現実的なのかどうか, 少し疑問に思うところもあります。
山本 超音波内視鏡(EUS)の進歩について,お願いいたします。
藤田 EUS は,経消化管的に超音波断層像を入手するために開発されたという経緯がありますが, EUS を用いたインターベンションは,組織を穿刺して細胞を吸引する,組織片を採取するという使い方で登場しました。
最近の EUS では,診断的な役割が相対的に小さくなってきています。これは,治療への応用が非常に活発になってきていることによります。 たとえば仮性のう胞や,胆管のドレナージなども EUS を用いた方法が有用であるという報告が増えています。 さらには,癌に対して,ドラッグデリバリーの道具として応用することも積極的に試みられてきています。
EUS の最大のメリットは,消化管を介して深部の情報が手に入ることで,組織のルーペ像や切除標本の割面などをイメージさせる画像が容易に得られます。 粘膜面で判断できないものを画像から読み取れること,その場所からピンポイントに組織学的診断の材料を得られること, そして,その場所に正確に薬剤や針を送り届けられること,の 3 点が大きな特徴といえます。
山本 最近注目を集めているものが,小腸にも届くカプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡です。 小腸に病変があった場合,これまでは内視鏡が届かないために診断が遅れることもありました。 これらの内視鏡が開発され,診断が非常に難しかった小腸出血,つまり出血源不明の消化管出血がかなりの精度で診断できるようになりました。 出血のみならず,腫瘍や炎症性の病変などにも対応できます。