坂本 国内で唯一承認されたセレコキシブについて,いかがでしょうか。
馬嶋 使用にあたり,CV リスクがどうしてもネックになります。たとえば低用量のアスピリンとの併用などは行われているのでしょうか。
坂本 行ってはいますが,低用量でも消化管傷害のリスクが上がってしまいます。 低用量アスピリンとセレコキシブとの併用は,いわゆる従来型 NSAIDs に近い消化管傷害のリスクになるのでやりにくいです。
馬嶋 CV リスクには注意が必要ですが,腫瘍や慢性炎症を制御するセレコキシブの役割は期待できます。
川合 セレコキシブについて,香港で非常に良い臨床試験が行われています。 消化管潰瘍のハイリスク患者にジクロフェナクとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用すると,潰瘍の発生率はセレコキシブとほぼ同じです。 次に,セレコキシブ単独と,セレコキシブと PPI の併用を比較すると,後者の群で完全に消化管出血が抑制されました。 つまり,セレコキシブだけでは今のところ消化管傷害を完全に抑えることはできませんが,従来型 NSAIDs に比べれば明らかにそのリスクは少なく, さらに,PPI を加えればハイリスクの患者でもほぼ完全に予防されるというものです。
CV リスクは確かに重視すべきですが,消化管傷害を少なくする作用のある NSAIDs の特性を,十分理解しながら便利に使用していく,というのが最善ではないかと思っています。
杉原 繰り返しになりますが,私は抗がん剤との併用による効果に期待しています。 セレコキシブは血管新生にもアポトーシスにも関与しているので,いろいろな経路でがんの発育を抑える可能性はあると思っています。 アバスチンという血管新生阻害薬が,抗がん剤との併用で非常に高い治療効果を出していることは,よく知られています。 動物の実験系で,治療効果を検討していくつもりです。
坂本 今回の適用は対象疾患が限られていますが,少なくとも消炎鎮痛薬として拡大は見込めるのでしょうか。
川合 現在,肩関節周囲炎と腰痛症で,いくつかの臨床試験結果を申請中と聞いています。 有効性は間違いがないので,筋・骨格系での適応疾患は徐々に増えていくだろうと思います。
杉原 CV リスクの可能性は否めませんが,リスクの程度など,同種の rofecoxib とは異なるだろう,というのが, セレコキシブに対する共通したご意見だと思います。リスクに十分注意しながら,消炎鎮痛薬として上手に使用していけると考えられます。 今後は,さらに適用が拡大され,将来的にはがん化学療法の一剤として位置付けられる可能性もあります。本日はありがとうございました。