■治療学・座談会■
COX-2 阻害薬の臨床応用―期待と限界
出席者(発言順)
(司会)坂本長逸 氏(日本医科大学消化器内科)
川合眞一 氏(東邦大学医療センター大森病院リウマチ膠原病センター)
馬嶋正隆 氏(北里大学医学部薬理学)
杉原健一 氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腫瘍外科学)

心血管系障害リスクをどう考えるか

■従来型 NSAIDs がもつ副反応

坂本 COX-2 阻害薬の副作用とされる CV リスクは,rofecoxib に限ったことなのでしょうか。 2005 年 2 月に米国 FDA(食品医薬品局)が諮問委員会を開き,従来型 NSAIDs について検討しています。 ポイントは,COX-2 阻害薬の長期服用は本質的に CV リスクを増大させるおそれがある……,その一方,薬物の作用は非常に有用である……, ほかの NSAIDs にも CV リスクがあるかもしれない……という流れかと思います。

 最近の疫学的研究のシステマティックレビューやメタアナリシスでは,イブプロフェンやジクロフェナクなどにも CV リスクの可能性が示唆されています。 そこで,CV リスクの生理的な背景についてお願いできますか。

馬嶋 まずは,COX-2 阻害薬で CV リスクが増える可能性をどう考えるかだと思います。 ペンシルバニア大学の FitzGerald 先生は,トロンボキサン(TX)と PGI2のバランスの問題だと説いており,今はその考えが浸透しているように思います。 TX は血小板が作り,それが COX-1 由来であり,血管壁の PGI2も今までは COX-1 だと考えられていたというのが大方の見解だと思います。

坂本 血管壁に関しては COX-2 だという話はいつからでしょうか。

馬嶋 それは 2002 年のことで,バンダービルト大学の Breyer 先生が論文を『Journal of Clinical Investigation』に発表し,非常な衝撃となりました。 腎臓ですら COX-2 で PGE2が産生されているのだから,血管壁も COX-2 であろうと考えざるをえないデータでした。 それらが背景にあり,おそらく FitzGerald 先生は Breyer 先生のデータを支持して,血管壁に PGI2ができていて, 従来は COX-1 だと考えていたが実は COX-2 ではないかという論旨を組み立てたと思います。

 ただ,血管壁の外側には TX がかなり産生されていることを忘れてはいけないと思います。

坂本 それは,平滑筋細胞ですね。

馬嶋 そうです。Samuelsson 先生が大動脈の PGs として TX を見つけており,血管壁の外側の TX にも注目すべきだと思います。 FitzGerald 先生のバランス説を考えるうえで血管壁の TX は注意する必要があると思います。

坂本 最近,従来型 NSAIDs にも CV リスクの可能性を示唆するデータが出されており,必ずしも FitzGerald 先生の説があてはまらないのではないか,と疑問に思っています。

 Na・水貯留や血圧上昇は,COX-1 阻害薬や COX-2 阻害薬,従来型 NSAIDs においても,同じように作用があると考えられるのです。 それらが,ハイリスク患者の CV リスクを押し上げ,結果として同じようにイベントを起こしているのではないのでしょうか。

馬嶋 Breyer 先生のデータは動物実験の結果ですから,動脈硬化などは発生していないわけです。 ですから,CV イベントが発生する血管壁には COX-2 があり,それで PGI2ができていると考えざるをえないのかもしれません。 根拠がやや不明確ではありますが,FitzGerald 先生の説も一理あるのではないか,と思います。

■心血管系障害に関わる作用

坂本 従来型 NSAIDs の水貯留作用は,選択的 COX-2 阻害薬のそれと比較して,臨床的にはそれほど差がないというデータが報告されています。 血圧上昇作用について,承認前の治験結果では,セレコキシブよりロキソプロフェンのほうが有意に高かったとされていますが。

馬嶋 血圧上昇作用の問題はかなり難しいと思います。実は,Na のハンドリングが異常をきたし,血管壁と体内に Na が貯留すると, 昇圧物質が同程度であっても感受性がかなり異なってきます。血圧上昇しやすくなる,つまり血管壁が過敏になるなど,二次的な変化が起こります。

坂本 そういう作用が影響して,NSAIDs の CV リスクを誘導しているのかなと思いましたが,川合先生,ご追加はありますか。

川合 CV リスクで注意すべき点は,血栓形成と心不全のリスクです。 両方一緒に議論していることが問題を複雑にしていると思います。

 rofecoxib は,Vigor(Vioxx Gastrointestinal Outcomes Research)試験で,心筋梗塞の発生リスクが対照(ナプロキセン)群に比べ 4 倍高くなり,明らかな有意差が出ました。 FitzGerald 先生が説いていることは,血栓形成についてですね。 選択的 COX-2 阻害薬には,その要素はあるのではないかと思っています。

 CV リスクのある患者における NSAIDs 使用に関して,米国心臓協会によるガイドラインは非常にシンプルです。 まず,アセトアミノフェンやオピオイド,アスピリンなど,古い薬剤を推奨しています。 選択的 COX-2 阻害薬はリスクを熟考したうえで少数例に使用するという考え方です。

坂本 米国のガイドラインには,CV リスクの定義もあるわけですよね。

川合 はい。ただ,米国は CV 患者が多いためか,リスクが少し強調されすぎているような気がします。 従来型 NSAIDs でも心不全リスクが高まることなどは,すでによく知られています。

坂本 CV リスクは必ずしも選択的 COX-2 阻害薬に限らず,従来型 NSAIDs にも CV リスクの可能性を示唆するデータが出ています。 その背景として,TX と PGI2のバランス説,さらに腎臓を介した水貯留作用,あるいは血圧上昇作用,これらが CV リスクの一因となっているのではないかということですね。

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