小川 それ以外に ST 上昇型,非 ST 上昇型を問わず,もう少し発言しておくべきようなことがありましたらお願いします。
石井 インターベンション治療を行う若い人に対してですが,自分の反省もこめて言えば, 言い方は悪いですが,詰まったものを開けることが手技的には非常に興味深いのです。 しかし,やりっ放しではなくて,その後のきちんとした薬物療法と生活指導を行うことが非常に大事です。 患者さんのフォローがきわめて大事であると,最近つくづく感じています。
石原 確かにインターベンション治療に関しては,専門の先生方はよく勉強されていますが, その後の管理,たとえば血糖が高い人を放置していたり,血糖値を測っていなかったりすることがあります。
インターベンション治療の目的は,血管をきれいにするためでは決してなくて,その患者さんの予後を改善し, 心機能も良くして,いろいろな全体症状を良好にすることなのです。
一方,急性期は急がなければいけないものもありますが, 緩急をきちんとつけて考えなければいけないということを肝に銘じておく必要があると考えています。
宮内 UAP の入院あるいは CAG の適応として心不全と心室性不整脈も考慮する必要があります。 心筋梗塞の既往があるような,もともと心機能が低下した患者がACS となれば心機能が大きく落ち込み, 血行動態が不安定化し,心不全あるいは心室性不整脈が誘発されることもあるからです。 特に無症候性に以前心筋梗塞があったにもかかわらず,無治療で経過してきた場合は要注意です。 また,プライマリケアでも,心室性期外収縮が多発,あるいは心拡大があって心不全兆候がある患者さんで 12 誘導心電図が以前と変化している場合も注意が必要です。
心不全例では鑑別が問題となることもあります。 胸痛を伴う重症心不全例で心電図上 ST−T 変化を伴っていて「けっこう大きい梗塞だな」と思ったら, 冠動脈に有意狭窄病変はない,実は心筋炎だったということもあります。実際は劇症心筋炎を疑って, 虚血を除外する鑑別の意味で冠動脈造影を施行する場合が多いと思います。 心機能が悪ければ,全体の臨床像で,心筋炎もだいたい診断できますが,心電図変化が強いにもかかわらず, 心機能自体が保たれている場合,安心していると経過中劇症化することもあります。 心筋炎を常に念頭におき,次の処置をシミュレーションしておく必要があります。
小川 それと,いきなり心不全で来院されるから症状も不明で,心筋梗塞の心不全かと思う。
宮内 そうなのです。そういう心筋のファクターで心不全をきたすこともやはり頭の隅においておくことですね。
小川 鑑別診断として,心筋炎にはだれでも痛い思いをしたことがあるものです。
宮内 心筋炎の場合には,特に経皮的心肺補助(PCPS)を入れるタイミングが重要で, 早めに入れて対応することです。血行動態が悪くなってきたら,進行も速く,救命の手段もなくなりますから,PCPS の準備を少なくともしておくことです。
小川 お忙しいところを集まっていただきまして,非常に実り多いディスカッションができたと思います。ありがとうございました。