■治療学・座談会■
増加する肥満にどう対応すべきか
出席者(発言順)
(司会)白井厚治 氏 東邦大学医療センター佐倉病院内科
宮崎 滋 氏 東京逓信病院内科(内分泌・代謝)
井上郁夫 氏 埼玉医科大学内科学内分泌・糖尿病内科部門

■肥満治療に必要な受け入れ態勢

白井 解消するための原理的な方法はわかってはいても,実際簡単にいかないのが肥満なわけです。難しい問題ですが,これは重要な点だと思います。

井上 糖尿病でしたら,薬も多くありますし,栄養指導もあり,血糖測定器もあって,医療制度的にも環境が整っているといえます。 しかし,残念ながら,肥満といった場合には,どうしても食べ過ぎから起こりますから,なかなか本人の病気といえない面があるのですね。 そのため医療制度も追いついていきません。

 本来は当人の話を聞き,だれと暮らし,どういう食生活を送っているかなど,個人の生活にまで入り込まないと,容易には解消できない問題だと思います。 そういう意味で,今の医療制度,テクニックが及ばないところではないかと考えています。

白井 まさに問題は深いのに気付かず,漫然とやっている部分もあるのではないか,考えさせられます。

井上 将来を考えると,この状態を放置していてはいけない時代でしょう。何か別の方法が必要ではないか。 医者ひとりでは太刀打ちできませんから,最終的には,やはりチーム医療,白井先生がなさっているような, 医師から栄養士,薬剤師がそれぞれの立場で協力して患者さんの治療にあたる体制が理想的なのではないでしょうか。

白井 結局は,受け入れる環境というか,医療側に,心のケアも含めた受け入れ態勢をつくっていくことが,重要でしょうね。 そこを無視して命令形でやってきた医療のやり方が問われており,今後どのように,それを科学的にやっていくかだと思います。

■薬物療法のポイント

白井 そこでひとつには飲めば痩せられる薬が望まれますが,薬に関し現状と今後について,お考えを伺いたいと思います。

宮崎 薬物療法では,食欲を抑制する薬,消化吸収を抑制する薬など,いろいろ開発されており,確かに有効な治療法ですが, これが完全であるかというと決してそうではなく,効果は部分的なものだと考えています。 たとえば,肥満遺伝子があっても過食がなければ肥満しないのと同じように,食べすぎればいくら薬を飲んでも効果はないとされています。

 これまでマジンドール,シブトラミン,リモナバンの臨床試験などをやってみて感じることは,食欲抑制薬であっても 1 日中すべての食欲が抑制されるわけではなく, 服用している方の話を聞くと,食事は普通に摂っていたけれど,気付いてみれば間食をしていなかったということが多いそうです。 食事と食事の間の空腹感がなかったという効果だけでも痩せるわけです。食欲に勝てないという人の食べ物に伸びる手が薬で止まる, そういう効果はあるのではないかと思います。あとは有効性,有用性,安全性の問題が大きく, それさえ解決すれば,食欲をある程度抑制し,食事療法より容易に行えるような環境が,薬で可能になるのではないかと思っています。

井上 宮崎先生,新薬を世に出すときの評価の仕方に関し,肥満薬の場合は非常に難しいと思います。 肥満は 5%体重を減らすと,血糖が下がり,中性脂肪が下がりと,個々の疾患に対しての効果は小さくても,すべてを足すと非常に効果的になるわけです。 そうした評価の仕方が何かできないものでしょうか。

宮崎 おっしゃるとおりで,肥満症治療薬は体重が減ることがポイントで,血糖なら血糖効果薬に比べて当然弱く,血圧で比べれば降圧薬より弱い。 しかし,体重が減ることによる波及効果,影響により代謝をトータルで改善する点で,特にメタボリックシンドローム型の肥満症に非常に効果が出てきます。

白井 薬だけでは解決できないとはいえ,武器がないと戦えないのも事実です。特徴のあるいくつかの薬が出て, ある程度使いこなせるような時代が早く来ることを期待します。

■今後の課題

白井 最後に先生方にひとことずつお願いいたします。

宮崎 本日はお話しする時間がありませんでしたが,今後問題になってくるのは小児の肥満です。 小児の肥満がそのまま大人の肥満になってしまい,疾患合併率がより高い時代になってきます。子どもは,ストレスや世の中のひずみを最初に受けやすいものです。 どうやって子どもを肥満から守るかということを真剣に考えるときでしょう。

井上 小児科医に加えて,家庭,小学校,地域,そういった社会が取り組むべき部分があるでしょうね。 社会的な仕組みを構築していく必要があると思います。

白井 先生方のお話から,肥満が今後さらに問題となってくる状況がみえてまいりました。 しかし,対応がなかなか困難であることのなかには,現代の医療制度の問題や社会のさまざまな問題もあって,肥満はまさに現代のひずみの溜まり場になっていると思われます。

 肥満への対応を考えるにあたって,単に個人まかせの解決というより,もう一度,エネルギー学,運動学,栄養学を含めた科学的な根拠とやる気, その両方を併せて総合的に取り組んでいかなくてはなりません。 本当の意味で,肥満診療は臨床医の腕の見せどころではないかと感じております。本日はありがとうございました。

前のページへ