野々木 循環器救急医療は,ここ 20 年,30 年で院内治療成績がよくなり,欧米にも劣らないようになってきました。まず,それぞれの地域でのお立場からお話しいただけますか。
森田 私の三島救急救命センターには,循環器の患者が集まりやすい傾向があります。24 時間,血管形成術や緊急手術を実施していることが知られていて,高齢化が進んでいることからだろうと思うのですが,心筋梗塞の患者は年間 120 名前後で推移し,大動脈系の疾患,脳血管障害といったものが,増えてきている印象があります。 2004 年の入院患者を外因性と内因性に分けると 35%対 65%で,内因性がかなり多い。内因性の内訳では脳血管障害が 24%,冠動脈疾患が 22%,とくに急性心筋梗塞(AMI)は内因性の 20%弱です。その他の心疾患が 6%,大動脈疾患が 6%,呼吸器が 2%,消化器が 12%です。入院できた院外心停止が 14%で,脳血管,大動脈,心臓といったものを包括的にとらえて循環器が内因性のおよそ 7 割を占めています。 大阪府の人口 880 万人における事故種別搬送人員の推移をみますと,急病,交通外傷,一般負傷,転院搬送とあるなかで,交通外傷は横ばいですが,急病は毎年 3%ぐらいの増加率で右肩上がりです(図 1)。
図1 府内事故種別救急搬送人員の推移 |
野々木 外傷と疾病(内因性)で分けると 6〜7 割ぐらいが疾病ということですね。
森田 本当に循環器の患者が増えているかどうかをみるため,おもだった診療科だけをピックアップした人口 36 万人の高槻市の搬送人員の推移(2000〜2005 年)を示します(図 2)。脳疾患は横ばいで,心臓疾患が着実に増えています。呼吸器は,患者がゼイゼイいっていると担当医が気管支喘息とみなして,本来は心臓疾患でも呼吸器に入れてしまうためもあるでしょう,増えてきています。消化器疾患も微増しています。 このデータでは心疾患の増加率が高いのですが,これは高槻市だけではなく,先ほどの大阪府のグラフ中に占める循環器の割合も高いと思われるので,循環器救急の実数は増えているのではないかと思います。
図2 高槻市における診療科別搬送人員の推移 |
野々木 東京の状況はいかがですか?
源河 以前は東京医科大学八王子医療センターが八王子市というかなり大きな市の救急医療のほとんどを担っていました。われわれの施設は,創設 4 年目の新しい病院です。3 次医療はしていないので救急専門部署はなく,各科の対応だけであまり積極的には展開できていません。都下のベッドタウンで高齢化が進み,脳血管と循環器の救急のニーズが増えている状況です。
野々木 救命救急センターよりも 2 次救急施設に循環器救急疾患がかなり搬送されているということですね。
源河 増えていると思います。
野々木 東京都心はドーナツ化現象で夜はあまり人がいませんし,高齢化しているのは周辺だと思うのです。通勤圏から少し離れたところで循環器疾患が増えてきているのではないでしょうか。
源河 都心の職場近くの病院に行っていた人が,定年後を考えて,われわれの病院を紹介されて来る例がかなりあります。 私は以前,都心の病院に勤務しており,地域の先生方と交流がありました。当時は都内に大学病院や循環器専門施設が多数あるにもかかわらず,CCU がいっぱいで受け入れられず,たらい回しのようなことが起きていると聞きました。それで東京都 CCU ネットワークができ,効率的な受け入れ態勢を整えたという経緯があります。
野々木 高知県の状況をお話しいただけますか。
瀬尾 高知は高齢化がどこよりも進んでいて,交通の便が悪く,大学も中心部から離れたところにあるので,都会のシステムとはかなり違います。その解決のために,1992 年から急性心筋梗塞研究会をつくって県内の病院からデータを集め,年間の発生率とか患者の流れを調べてフィードバックしてきました。高齢化がますます進んできたので,かなり数が増えてきていると思います。
ただ,できるだけ早く拠点病院に転送することを地域の医療機関に周知してきたので,そのシステムが整ってきた。県全体の人口が 80 万人ぐらいしかないので,多数の救命センターはいらないのですが,搬送距離が長いことが問題になっています。 新しくできた高知医療センターがドクターヘリの運用を始めたので,救急車で 2 時間以上かかっていたところを 30 分に短縮できましたし,高速道路も少しずつ延伸していますので,ここ 2 年ぐらいで少し変わってきました。
高知大学は救命救急センターがありませんが,若い人が育ってきていつでも PCI(percutaneous coronary intervention)ができる体制を整えております。
森田 各診療科が 24 時間,2 次救急を受ける体制をとっているということですか。
瀬尾 持ち回りで救急当直 1 名と研修医 1 名が窓口になり,各科の当直がバックアップ体制をつくっています。救急隊から事前に連絡がある場合は,当番がそれを受けて,トリアージをして,担当科に送るという形にしています。各科だけで対応するとトリアージがいちばん問題になりますので,ここ 2 年ぐらいシステムを変えて運用しています。ただし,数はそんなに多くありません。
源河 1 次はないのですか。
瀬尾 周りに病院がないので,近所の人はかなり 1 次も……。(笑)地域の大学として住民相手の心肺蘇生講習会や講演会を行い,地域連携を図るように心がけています。大学病院という敷居を低くすることも大切です。
野々木 それぞれのおよその状況がわかりました。循環器救急が増えているということでしたが,もっとも多い急性心筋梗塞の致命率は相当に下がって救命レベルが高くなっているという認識でよろしいですか。
森田 充実した専門病院であれば致命率は 5〜8%,高くても 10%以下でしょうか。
野々木 再灌流療法とか補助循環とかいろいろなものが出てきて,致命率が下がってきた。重症例の対策は必要でしょうが,かなり院内の状況は解決してきたと思います。