片山 Conn 先生の最初のシリーズ論文では,原発性アルドステロン症,コーン症候群は高血圧症の 20%ぐらいではないかとありました。 その後いろいろな報告でそんなにはないということになり,内分泌性の高血圧症は全高血圧症の数%,原発性アルドステロン症は 1%未満という考えが定着していました。
しかし,大村先生,西川先生方のお仕事,イタリアの Mulatero 先生方のお仕事で,ひょっとすると 10〜20%が原発性アルドステロン症ではないかという話が出てきました。
最近はアルドステロン/レニン比(ARR)が簡便なスクリーニングの指標として確立されてきていますが,最初に提唱されたのは平松先生です。 日本発のオリジナルな仕事が世界に広まった良い例だと思います。
大村 はい,そうです。
以前,原発性アルドステロン症は非常にまれで特殊な疾患と考えられ,アルドステロン過剰により生じる低カリウム血症で原発性アルドステロン症を疑い診断を行っていました。 このため高血圧の 0.1〜1.0%が原発性アルドステロン症と長く考えられていました。
原発性アルドステロン症では副腎から過剰に分泌されるアルドステロンにより,低カリウム血症が生じる以前の段階から, レニン・アンジオテンシン系に負のフィードバックがかかりレニン活性が低下するため, 片山先生からご紹介がありましたアルドステロンをレニン活性で割った ARR が増加します。 この点に着目されて原発性アルドステロン症のスクリーニング検査として ARR が有用であることを平松先生が報告されました。 そして 1994 年にこの ARR を用いて,オーストラリアの Gordon 先生が,高血圧専門施設で 199 例の血清カリウム正常の高血圧患者をスクリーニングし, 約10%が原発性アルドステロン症であろうと報告しました。この論文がきっかけとなり, ARR を原発性アルドステロン症のスクリーニングに用いた研究調査が多くの施設で行われ, 片山先生からご紹介がありましたように,高血圧の 10〜20%が原発性アルドステロン症ではないかと考えられるようになりました。
われわれも ACTH 刺激を行う副腎静脈採血で確定診断を行う原発性アルドステロン症の診断系を確立し, アルドステロン 12.0 ng/dL,レニン活性 1.0 ng/mL/時を暫定的なカットオフ値として, 一般内科外来で高血圧を指摘された無治療患者 1,020 例をスクリーニングしたところ,61 例(6.0%)が最終的に原発性アルドステロン症と診断されました。 海外の調査は紹介患者を対象としていたり,原発性アルドステロン症の診断を内分泌検査のみで行っている報告が多いため, やや原発性アルドステロン症の頻度を高めに評価している可能性があり,高血圧での原発性アルドステロン症の頻度は 5〜10%が妥当な線ではないかと思います。
仮に原発性アルドステロン症の頻度を 5%として,いま日本の高血圧患者数は 2,500 万人でしょうか。
片山 3,200 とも 3,300 万人ともいわれます。
大村 そうすると原発性アルドステロン症は約 160〜165 万例と推定できます。 しかし,1998 年の厚生省の班会議の調査では,原発性アルドステロン症の全国推定患者数を 1,450 例と報告しています。 約 1,000 例に 1 例が診断されているだけなのかもしれません。