飛田 最近,病診連携とか診診連携が話題になっています。 SAS の診療においても全国的なネットワークがあれば転勤などで患者さんが移動したときに容易に紹介できて患者さんにとって大変良いことであると思いますが, 今のところそこまでいっていない。
佐藤 病診連携とか診診連携などのネットワークもいいのですが,CPAP 治療を受ける患者同士のネットワークができるとよいと思っています。 CPAP 治療は矛盾を抱えた治療法です。 月 1 回の受診が義務づけられているのに,未受診の患者も少なくないし,なかには CPAP を自己購入されるお金持ちの方もいます。 CPAP 治療のフォローアップ体制の難しさを感じています。患者というより CPAP ユーザーという考え方で CPAP 治療を受けている方が増えていますので, 今後 SAS の診療自体が変わってくるのではないでしょうか。
飛田 病院で患者を抱え込んでしまうと,ケアしきれないというところがあります。 一般の先生方に診てもらうように患者さんをフィードバックさせることも必要です。そういうシステムは,まだできていない感じがします。
佐藤 問題点の一つは,一般の医療機関では,受診しても病状(CPAP の使用状況など)を説明する機会が減ってCPAP の使用代を払うだけのようになってしまうので, コンプライアンスが落ちる可能性があります。一般の医療機関で CPAP 治療を継続するための,CPAP 業者と提携したネットワークなども必要だと思います。
高崎 アメリカなどで子どもの SAS 罹患率が高いというのはわかっていることなのに,日本では子どもの SAS を診療できるところがほとんどない。 どの大学でも睡眠医学講座があることが望ましいのですが,それができない限り,まだまだ SAS に関する啓蒙をしていかなければならない状態に置かれているのです。 先生は『Wake up America』を訳されましたが,日本では現在でもその当時の米国人の著者が嘆いたアメリカのレベルにも達していないと思います。 SAS診療に関する考え方が変わっていかない限り,展望は開けないのではないかと危惧しています。
名嘉村 睡眠医学と老年医学は今世紀の大きな要素になる医療だと思っています。 SASのことだけを話していますが,睡眠障害には不眠症などほかにもあって,その大事さがよく認識されていません。 日本でも睡眠講座が 5 ヵ所できていますが,精神科の先生がほとんどいない。 精神科の先生は睡眠のことは精神科と思っているから,独立させるという考えが必ずしもない。 しかし睡眠は PLM などを含めて生理学的要素が強いから,これをどう認識するかによって非常に違ってくる。
もう一つ,業者が患者に CPAP 装置を売ることがよいかどうか。CPAP に限らず薬事法で認可されている製品を業者が直接患者に販売することはグレーゾーンで, 違法の可能性もあります。私は個人的には機器加算を別請求にして,診察は月 1 回の強制来院ではなく現在の高血圧などの生活習慣病のように, 来院回数を医師と患者さんが相談し必要に応じて来院するシステムにしたほうがよいと考えています。 そのほうが公平な医療とより良いフォローアップができるものと思います。
飛田 SAS は患者さん自身の問題だけでなく,冒頭で紹介したように日中過眠や不眠などの睡眠障害が原因で,交通事故や海運事故, 職場におけるミスや事故など多くの社会問題を引き起こす可能性があります。 SAS 患者はわれわれの身の回りにたくさんおります。SAS を理解し,的確に対応することが重要であると思います。本日は SAS を取り巻く話題を先生方のご経験をもとに伺いました。 わが国における SAS 診療の充実を願ってやみません。今日はお忙しいところ長時間にわたり有難うございました。