■治療学・座談会■
睡眠時無呼吸症候群の診断をめぐって
出席者(発言順)
(司会)飛田 渉 氏 東北大学保健管理センター
高崎雄司 氏 太田綜合病院 睡眠センター
名嘉村博 氏 名嘉村クリニック
佐藤 誠 氏 筑波大学大学院人間総合科学研究科睡眠医学講座

患者の掘り起こしと啓発

■患者に病識をもたせる工夫

飛田 名嘉村先生のところは,最初どういうかたちで患者がみえますか?

名嘉村 外来で声をかける手もありますが,最初は入院患者でいびきの多い人を探して検査していました。 1990 年のはじめころです。2,3 年前まで沖縄では唯一の施設でしたから,3 割程度が紹介だったと思います。

飛田 一般のクリニックからの紹介は?

名嘉村 一般クリニックですが,最初は患者の口コミの影響が大きかったのではないかと思います。

飛田 高崎先生のところではどうですか?

高崎 私が現在の職場に移ったとき,太田保世先生は SAS の市民フォーラムを計画していました。 SAS 診療を始めるにあたってまずは啓蒙活動が重要なので私もそれに乗った次第です。 もう一つはホームページの作成。私が移った当初,福島県でホームページを開いて来院してくれる人はほとんどいませんでしたが, 最近はホームページを見て受診してくれる患者のほうがむしろ多いぐらいです。また紹介患者も増えてきました。

 福島県は広いので,端のほうから来ると片道 3,4 時間という人もいます。 したがってやはり SAS 診療に関するネットワークを作らなければいけないと考え,地域の先生に SAS 診療を一緒にやりませんかと声をかけた。まだ十分にうまく動いていませんが,SAS では持ちつ持たれつの関係を作るのがよいのではないかと思っています。

飛田 SAS は病識がない方が多いので,家族に指摘されてくるとか,一緒に連れ立ってくるというケースはありますか?

高崎 半分ぐらいはそうです。私のところは二つ病院があり 100 床ぐらいの病院に 4 床の検査室,もう一つは 1000 床ぐらいの病院に 4 床の検査室です。病院の中でも患者の掘り起こしが可能ですので, 大病院のほうは入院患者を中心に拾えば十分だろうと思いました。しかし問題もあります。たとえば糖尿病や肥満の患者で SAS 治療がうまくいかないと,病院中にそのうわさが広まり,逆に SAS 診療に来ないきっかけを作ってしまうことがあります。 つまり,いろいろなメリットがある反面,デメリットもあることを十分に理解しておく必要があります。

■医師への周知と社会への啓発

佐藤 先にも述べましたように,新潟県では SAS 診療に関係している医者のネットワークを最初に作りました。 次にネットワークに参加してくれる医者および医療施設を募りました。 最後に(4 年前になりますが)自ら OSAS 患者である弁護士さん,議員さんなど SAS 診療の重要性を理解してくださる方をも含めて NPO を作り,SAS に関する啓蒙活動を開始しました。 啓蒙活動としては,(1)開業医を含めた医療関係者,(2)一般市民,(3)学校の児童,生徒や PTA を対象に,SAS や健康生活における睡眠の役割などに関する 講演会開催やマスコミなどを通した情報発信をしています。この結果,患者さん同士の口コミ情報も増え, 新潟県では多くの患者が PSG 検査を受けてくれるようになりました。

筑波大学に移動した後,茨城でもネットワーク作りを試みていますが,若干苦戦しています。 関東では東京中心でマスコミや医療圏が形成されていますので,茨城県だけの情報を取り上げてくれるマスコミや機会が極端に少なく,ネットワーク形成も困難です。 

 一度だけ,NHK が「首都圏ネットワーク」というコーナーで私どもの講座のことを関東一円に流してくれました。 その後 1 ヵ月間で県外から 30 名近い患者が受診してくれましたが, そのほとんどが,自宅の近くに SAS 診療施設があることを知らなかった事実に驚きました。 これだけインターネットなどが普及していても,身近に SAS 診療機関があることを知らない人が多いようです。 SAS 診療に関する情報提供の重要性を感じました。

飛田 いま私は学生の健康管理が中心の保健管理センターにいます。学部学生と大学院生を含めて 1 万 8000 人で,毎年定期健康診断を行っています。この学生の中に BMI が 30 以上の高度肥満者が約 200 名います。 BMI 25 以上になると 1000 名近くおります。これら肥満学生の中に SAS の人がいるのではないかと思い,ライフスタイル調査をしてみたら, いびきをかいて日中眠いという学生がかなりいることがわかりました。さらにパルスオキシメータを貸し出して睡眠モニタを行ったところ, 典型的な SAS が散見されました。その結果,CPAP 治療を行った学生は日中の眠気が取れて授業に身が入るようになり,成績も上がってきたとのことでした。 大学も,学生を対象にした SAS 診療が重要だと感じ始めております。

 職場でも掘り起こすチャンスがあると思います。職場単位あるいは事業所単位ですと産業医の先生方の関わりが重要になってくるのではないでしょうか。 検診システムの充実,患者を掘り起こすシステム作りが重要だと思います。私は事業所で睡眠健診を導入したらどうかと提唱したことがあります。

名嘉村 今までの健診は生化学とか肺機能の検査でしたが,これからは QOL を含めてメンタルな健診が重要になってくる。 なかでも睡眠健診。 いま 700 人規模の団体で,希望者 200 人近くにフルモニタで 3 ヵ月ぐらいかけて検診をしている途中ですが, 重症 SAS が多いのでびっくりしています。われわれが始めた 1990 年代前半は 6 割が肥満で,4 割は肥満でなかった。 当時,肥満だけで判断すると 4 割は見逃しますよと言っていましたが,ところが 2004 年で 6000 人を調べると,8 割が肥満です。

飛田 BMI が 25 以上ですか。

名嘉村 はい。もう,アメリカに近くなっています。 100 kg 以上の人では 93%が SAS ですが,30 代にピークがあります。 日本全体の肥満率が 20%,沖縄は 43%です。おそらく日本でいちばん SAS が多い。大げさにいえば,沖縄をみれば 10 年後の日本がわかる。(笑)

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