島田 心臓ではどうでしょうか。RA 系阻害薬を使ってボーダーライン上の高血圧患者さんたちの高血圧発症を防げるというようなことはできないのでしょうか。
小室 まだよくわからないのですよ。ARB を一時的に使用して,やめるとどうなるかをみる臨床試験が進行中ですが,臨床的にはどういう応用がきくのかよくわかりません。 しかしながらこの試みは,高血圧発症の機序を知るという点からはチャレンジングな試験です。
木村 ACCESS18)18)ACCESS(Acute Candesartan Cilexetil Evaluation in Stroke Survival)の結果はそのデータにきわめて近いですね。ACCESS は脳卒中の急性期の 1 週間だけカンデサルタンを投与しておくと,長期的にみた心血管事故を抑制できたというものです。
もう一つ,先ほど少し触れた併用療法の問題があります。現時点での併用療法はどうあるべきかということなのですが,小室先生はどういう症例に併用療法を用いるべきだとお思いですか。
小室 現状では保険適用の問題もありまして,多くの患者さんに行っているわけではありませんが,主に心不全に用いています。 心不全に素早く ARB を投与することがいいことはわかっていますし,またさまざまな大規模臨床試験において併用がきくことがわかっています。 血圧が下がり過ぎない限り,さらによい効果を狙って併用することがあります。
島田 その場合,大抵はβ遮断薬を使用します。そうだとしたら,β遮断薬が入った時点で 3 者併用療法の形になりますね。
小室 一般的には ACE 阻害薬が最初で,入院後にβ遮断薬を始め,それでもいま一つだという方には,さらに ARB を注意深くやるということです。
島田 最初,Val−Heft での 3 者療法は若干不良という結果が出ましたが,あれは CHARM で否定されたわけです。そう考えると,そこまで併用する症例はそんなに多くない。 今のところ重症の心不全とか,そういう場合のみになりますね。
島田 腎臓ではどうですか。
木村 われわれはまず ACE 阻害薬か ARB のどちらかで始めて,それを滴定しながら,蛋白尿がベースラインの 50%未満になるように,かつ,絶対値として 0.5 g 未満になるように,耐えられる最大用量まで続けます。それでだめなら,次に利尿薬を入れます。
利尿薬は蛋白尿を著明に減少させますから,手応えとして利尿薬は RA 系阻害薬の用量節約効果があるのではないかと考えています。 利尿薬を投与すると AT1受容体がダウンレギュレーションされるといわれていますが, たとえ少量の RA 系阻害薬であっても節約的に増強して効くということは理に適っていると思います。
それがだめなときにはさらに,片一方の RA 系阻害薬を併用して,耐えうる最大用量までいきます。それでもだめなときに初めて CCB を上乗せします。
島田 利尿薬を介在させるのですね。この場合,利尿薬の臓器保護効果の有無が,今後の大きな問題になると思うのですが,木村先生はあると思っていますか。
木村 もちろんです。利尿薬には少なからず腎保護作用があると考えています。
島田 小室先生はいかがですか。利尿薬は非常に重要なのですが,日本では利尿薬は利尿作用としてしか使っていませんでした。
小室 確かに Na を減らすということが最も重要でしょうが,長期的にどのように血圧降下を実現しているかというと, 恐らく血管のトーヌスを下げているのだと思います。 ですから,CCB と同じような機序で効いているともいえます。残念なことに,尿酸,脂質など代謝を悪化させてしまうので,利尿薬の臓器保護効果は相殺されてしまう可能性があります。
島田 もし,ダウンレギュレーションのようなダイレクトな作用あるいは何かを介する作用があるのなら,それはまた見直さなければいけないという部分がありますね。
木村 それとは別に,腎臓では利尿薬を投与すると Cr が上がります。ということは,糸球体濾過量が減っていることになります。 であるのなら,糸球体血圧は下がっているのです。昔,「RA 系阻害薬で Cr が上がる」と聞いて驚いたのと同様に,利尿薬は理論的にも糸球体血圧を下げているのです。 ですから,私は腎臓保護作用的に働いていることは間違いないとみています。
島田 最後にアルドステロン拮抗薬についてです。いわゆるレニン−アンジオテンシン−アルドステロン拮抗作用。 心臓ではこれについて真剣に考える必要があります。たとえば RALES19)19)RALES(Randomized ALdosterone Evaluation Study)や EPHESUS20)20)EPHESUS(Eplerenone Post−Acute Myocardial Infarction Heart Failure Efficacy)についてですね。
しかし,欧米でもそうですが,主にカリウムの問題があり現時点ではアルドステロン拮抗薬はそれほど使われていません。今後,エプレレノンが出れば,少し変わってくると思いますが,小室先生,これらの直接の作用についてはいかがですか。
小室 最初に驚いたのは,RALES,EPHESUS の臨床試験の効果を知ったときです。それまで,そういうことを想像していませんでした。
また最近では,試験名は忘れましたが,ACE 阻害薬と併用するといいという報告にも驚かされました。 単に AII の下流に存在するだけではなくて,やはり違った作用をもっていることを想像させます。
エプレレノンに期待するところは大きいのですが,何となくすっきりしないのは,アルドステロンの下流に何があって, 心不全に対してどのように働いているかということが全然わかっていないからなのです。 もう 20 年前に「アルドステロンは線維化を起こす」といわれて以来,あまり研究は進んでいません。 最近になって「酸化ストレスを増やす」など,いろいろな負のファクターが出てきています。
アルドステロンは本来は核内受容体ですから転写を増やすはずです。何か非常に重要な遺伝子の発現を増やしてるはずなのですが,それが見つかっていないのです。
島田 なるほどそういわれると不可解ですね。
小室 non−genomic effect といって,本来は核内受容体なのだけれども, AII の受容体のようなシグナルを介する作用もあるのではないかということもいわれています。 実際,重要なのは genomic effect なのか non−genomic effect なのかわからないのです。基礎実験をもっと進めなければいけないと思いますね。
島田 ただ,心不全の臨床試験が非常にドラマチックで,何かあるかもしれません。 また,一部で腎臓では 3 者併用するトリプル療法を行っていますね。
木村 メカニズムがはっきりしないことに加えて,腎臓では糸球体濾過量の低下によるカリウムの排泄能を補うために, アルドステロンが代償的に増加してカリウムを排泄してくれているわけです。ですから,それを切ることは本当に致死的になりかねません。恐らく臨床的に ACE 阻害薬と ARB と抗アルドステロン薬を腎機能低下のある患者さんに使うことは不可能に近いと思います。
結論的にいうと,何らかの発想の転換をしない限り,アルドステロン拮抗薬は腎臓についての薬剤にはなり難いのではないかと思います。
島田 高カリウム血症はとくに腎障害のある人にはリスクが高いですね。心不全でも腎障害が結構あります。
小室 当科では,NYHA III 以上の心不全の人には K が高くない人,ほとんど全員にアルダクトンが処方されています。
島田 以前からループ利尿薬とアルダクトンの併用がカリウム保持性ということで必然的な組合せとなっていました。
小室 心不全ではどちらかというと低カリウム血症になりがちです。ですから,その場合はいいのですが, 腎不全のときにはカリウム値が上昇しますので,アルダクトンの投与には注意が必要となってきます。
島田 しかも,この場合は少量投与ですね。他の ACE 阻害薬,ARB とは違って少量投与で進められます。
RA 系阻害薬のお話をいろいろうかがいました。まだ Bench side においても解明されていない部分がたくさんあります。 しかしながら,臨床的にみえる事実に促されて研究が進められてきています。 Bench side,Bed side その二つがあいまって臨床応用をどうやって適切に行っていくかが決まります。 また何年後かにこの内容で皆さんのご意見をおうかがいしたいと感じました。
本日はお忙しいなかをご出席いただき,ありがとうございました。
★座談会に登場する臨床試験: トライアルに関する概略は「循環器トライアルデータベース」http://www.ebm-library.jp/circ/index_top.html をご参照ください。
1)LIFE(Losartan Intervention for End−point Reduction in Hypertension Study)
2)DETAIL(Diabetes Exposed to Telmisartan and Enalapril)Study
3)CHARM(Candesartan in Heart Failure Assessment of Reduction in Mortality and Morbidity)
4)Val−Heft(Valsartan Heart failure trial)
5)Val−PREST(Valsartan for Prevention of Restenosis after Stenting of Type B2/C Lesions)
6)CAMELOT(Comparison of Amlodipine versus Enalapril to Limit Occurrence of Thrombosis)
7)SAVE(Survival And Ventricular Enlargement Trial)
8)HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation)
9)OPTIMAAL(OPtimal Therapy In Myocardial infarction with the Angiotensin II Antagonist Losartan)
10)VALIANT(VALsartan In Acute Myocardial Infarction Trial)
11)AASK(African American Study of Kidney Disease & Hypertension)Study
12)REIN(Ramipril Efficacy In Nephropathy)−2 Study
13)BENEDICT(Beegamo Nephrologic Diabetes Complications Trial)
14)SCOPE(Study on Cognition and Prognosis in the Elderly)
15)MOSES(Morbidity and Mortality after Stroke, Eprosartan Compared with Nitrendipine for Secondary Prevention)
16)RENAAL(Reduction in Endpoints in NIDDM with the Angiotensin II Antagonist Losartan)
17)Steno−2 (Intensified multifactorial intervention in patients with Type2 diabetes and microal-buminuria)
18)ACCESS(Acute Candesartan Cilexetil Evaluation in Stroke Survival)
19)RALES(Randomized ALdosterone Evaluation Study)
20)EPHESUS(Eplerenone Post−Acute Myocardial Infarction Heart Failure Efficacy)