■治療学・座談会■
メタボリックシンドロームのプライマリーケア
出席者(発言順)
(司会)寺本民生 氏 帝京大学医学部内科
島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科
江草玄士 氏 江草玄士クリニック

メタボリックシンドロームの頻度

■端野・壮瞥町研究の注目すべきデータ

寺本 一般の方の中にどれくらいメタボリックシンドロームの患者がいるのか,これは診断基準が定着しない限り,難しいと思いますが, そういったことを調べようとしている先生方もおられます。島田先生,ご紹介ください。

島田 これは北海道の端野・壮瞥町研究(対象は男性)と,それから松澤先生たちの職域の人たちを対象としたデータがあります。 たとえば端野・壮瞥町研究では,NCEP ATP III の基準に従って各々のリスク因子が何%ぐらいの男性にあるかを調べています。 それによると軒並み一つひとつの因子で 30〜40%というふうに分布しています。 NCEP ATP III のメタボリックシンドロームの定義で見直すと全体の 25%となっています。

寺本 一般人口で男性の 4 人に 1 人というのはすごい数字ですね。

島田 それでメタボリックシンドロームに関連するものは何だったかというと, いわゆるインスリン抵抗性のパラメータ,HOMA インデックス(インスリン抵抗性指数:空腹時血中インスリン値(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)/405)とインスリンの値が高いということでした。 もともと遺伝子的に日本人のほうが出現しやすいという可能性はないでしょうか。

寺本 おそらく日本人のほうが極端な肥満でなくても,IGT をもっている割合は高く,血圧が少し高いという人たちも多いのではないかと思います。

島田 しかも 6 年間追跡を行うと,そういった人たちでは明らかに心疾患発症率が上昇している。 おそらく脳卒中においても同じだと思いますが,CAD の予防という観点から非常に重要な知見だと思います。

寺本 25%もいて,CAD の発症率が非常に高いことになると,この人たちをいかにケアしていくかは公衆衛生学的に非常に重要な問題になります。

■海外のデータとの比較

寺本 この数値は海外でもだいたい同じですか。

江草 意外に同じなのです。端野・壮瞥町研究では,たとえば男性の腹囲は日本肥満学会の基準で 85cm を使っていますが, 米国ですと NCEP の基準は 102cm で,日本人とは桁外れです。症例数が多い米国の第 3 次国民栄養調査,NHANES III(National Health and Nutrition)のデータで, 年齢を調整したメタボリックシンドロームの頻度が, 男性が 24%,女性が 23.4%ですから,先ほどの 24.5%とはぴったり一致します。アメリカ人には 4700〜5000 万人ぐらいの患者がいるということになり,相当な数に上ります。

 また,年齢の影響があり,当然若い人は少ない。20 代の白人のデータですと 6〜7%です。それが加齢とともにだんだん上がってきて,60 歳以降 43%ぐらいでフラットになる。加齢とともに増加します。

 米国でも人種によって差があります。糖尿病が非常に問題になっているメキシコ系のアメリカ人は,メタボリックシンドロームの頻度が白人よりもずっと高く,約 32%です。日本人も糖尿病が非常に増えていて,患者の BMI は 23〜24 ぐらいが平均ですが,欧米人ですと 28〜29 です。ですから人種によって閾値が違い, 日本人のような民族は倹約遺伝子の影響を受けやすいといえます。

 また,白人では性差があまりはっきりせず,男性,女性の頻度がパラレルに年齢とともに増えています。 日本では女性のデータがまだ不足していますので,日本人の性差についてはいえませんが, メキシコ系,アフリカ系のアメリカ人では男性よりも女性のほうが頻度が高い。

 それから NHANES III のデータで耐糖能別に,IGT,IFG,糖尿病などに区分してやってみると,段階的にメタボリックシンドロームの頻度が上がっていく。 空腹時血糖が正常な人で 26%ぐらい,これが IGT になると 33%,IFG で 71%,糖尿病になると 86%です。 この糖尿病が非常に高いのですが,110mg/dL 以上で切って単純に見ていますから,メタボリックシンドロームの概念から少し外れた人たちも入っている可能性があります。

 IFG という概念で空腹時 110 以上,126mg/dL 未満でとらえても 71%が入ることになると,スクリーニングの基準としては Reaven の考えもあながち間違いではなさそうな感じがします。

寺本 スクリーニングするときにそのへんをちょっと心がけておくのがいちばんいい。確度が高くなりますね。

江草 フィンランドの Kuopio Ischemic Heart Disease Risk Factor Study でメタボリックシンドロームの追跡がされています。 先ほどの端野・壮瞥町研究のデータと同じように 40〜60 歳代の男性ですが,メタボリックシンドロームがない集団とある集団で比べると, メタボリックシンドロームの集団の CAD の死亡リスクはそうでない集団の 3〜4 倍高くなる。 端野・壮瞥町研究は 2 倍ぐらいです。日本人は白人ほどではないが,明らかに多いです。

寺本 日本人はハイリスク群と認識するべきだということですが, 一般人口の男性の 4 人に 1 人となると,それを見落とすと大変なことになりますね。 つまり,プライマリーケアの中でいかに重要な分野であるかということです。

 日本でも診断基準が明確になりましたので,プライマリーケアのレベルで早く見つけ出し,対処していくことが必要になってきますね。

■子供の時から注意を喚起するべき

江草 最近の海外の論文によると,子どものメタボリックシンドロームが非常に注目されています。 日本では肥満児も多いし,トリグリセリドの高い子が結構いますから,もっと低年齢のときから予備軍的な集団を把握して,子どもの時期から介入し,注意を喚起していくことが必要です。

寺本 この前,ある医学雑誌に青少年のメタボリックシンドロームを疑うべき数値が出ていましたね。 中性脂肪が 100 とか 110mg/dL とか,かなり低いところでもその可能性が高いという内容でした。子供のときからの生活習慣は非常に重要だろうと思います。

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