■治療学・座談会■
心房細動に伴う塞栓症予防としてのワルファリン
出席者(発言順)
(司会)是恒之宏 氏 国立病院機構大阪医療センター臨床研究部
杉  薫 氏 東邦大学大橋病院循環器内科
矢坂正弘 氏 国立病院機構九州医療センター脳血管外科
佐藤 洋 氏 大阪大学大学院病態情報内科学

ワルファリン服用中の脳出血の阻止

是恒 次にワルファリン服用中の脳出血に対する対応について矢坂先生からお願いできますか。

矢坂 ワルファリン服用中に出血を起こすと大出血になり,あっという間に症状が悪化しますので, 早急に INR を是正しなければなりません。 今まではビタミン K や新鮮凍結血漿が投与されていましたが,INR が戻るまでには,相当時間がかかります。 これまでのガイドラインでは「新鮮凍結血漿を 800mL ぐらい入れなさい」と書いてありますが,心臓が悪い方に 800mL を一度に入れるわけにはいきません。 結局,1 時間 50〜60mL,多くても 100mL くらいずつ投与することになり,最終的にはワルファリンの是正に数時間がかかってしまうのです。 しかし,これでは脳出血の血腫の拡大は防止できません。

 そこでヨーロッパではよく第 IX 因子複合体製剤の静注が行われています。 この製剤はワルファリンで抑制される II,VII,IX,X の 4 つの因子が全部入っており,10 分以内に INR は元に戻ります。 播種性血管内凝固症候群(DIC)やアレルギーショックを起こす可能性が報告されていますが, これまで投与した 60 例以上では発症した例はありませんでした。 血液 500mL 相当の凝固因子が 25mL の溶解液の中に凝集される形で投与されますので,心臓への負担が少ないのです。 ただし,保険適用はありません。 第 IX 因子複合体製剤の適応は「血友病 B の方か第 IX 因子が低下している方」とされていて, 地域によってはワルファリンによる大出血のときも「第 IX 因子が低下している」という理由で保険使用が認められているところもあるようです。

新しい経口抗凝固薬に対する期待

是恒 ワルファリンは高リスクの患者には非常に効果がある一方で,使いにくいというデメリットから, 実際の臨床場面では十分に使われていないということが改めて浮き彫りになったと思います。 近年,新しい経口抗凝固薬が開発されており,おそらくこの 10 年のうちに AF に対する抗凝固療法は変わっていくと思われます。 今後の展望について,それぞれの先生方からご意見をお聞きしたいと思います。

杉 AF の治療はやはり慢性と発作性に分かれると思います。 慢性の場合,適応のある患者では抗凝固療法を続けるということになると思いますので, 容易にコントロールできる薬剤の開発が望まれています。発作性については,より効果的に AF を抑えられる薬剤の開発と,アブレーションも含め AF をなくせる時代になることを期待しています。

佐藤 高齢者においてワルファリンは不可欠だと思いますので,より安全性の高い薬剤の開発が待たれます。 安全性にもいろいろありますが,高齢者では薬剤相互作用がとくに問題です。 第 X 因子阻害薬の薬剤相互作用の試験結果が少しずつ出てきています。 治験の薬剤で INR がかなり低下した経験があるので,大変期待もしつつ,不安も感じます。

矢坂 毎回採血する必要がなく,安全域が高くて出血のリスクが少ない薬剤が非常に望ましいと思います。 また,仮に出血しても止血の方法がある薬剤をぜひ開発していただきたいと思います。

是恒 ワルファリンと違い作用時間が比較的短い薬剤が開発されれば,手術の際に中止するか否かの問題も解決できるように思います。

 本日は AF の塞栓予防に関する抗血栓療法の問題につきまして,いろいろな分野の専門家のご意見をいただきました。読者の方々の日常臨床にも大変参考になる内容だと思います。

 本日はどうもありがとうございました。

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