島田 日本では個々の降圧薬の使用頻度が欧米諸国と違っているようです。実際はどうなのでしょうか。
齊藤 いくつかの調査をみると Ca 拮抗薬が断然トップで,どの調査でも 70%ぐらいです。 次に ACE 阻害薬が多いのですが,最近ではアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)が ACE 阻害薬にかなり迫ってきています。 2001 年の私の調査では,Ca 拮抗薬 70%,ACE 阻害薬 20%,ARB 5%ほどでした。 現在の調査では Ca 拮抗薬 60%,ARB 約 20%です。利尿薬を使わないこと,Ca 拮抗薬を非常に使うという 2 点が日本の特徴かと思います。
島田 この現状はどうしてなのでしょうか。
齊藤 この理由には医者側と患者側両方の要因があると思います。 医者としては,とにかく副作用なく血圧を下げたいという希望がある。患者にも同じ希望があって,副作用の少ない Ca 拮抗薬が非常に好まれているのではないかと思います。
久代 東大の上原譽志夫先生がプライマリーケア医と勤務医 1,200 人ぐらいを対象に,降圧薬の第 1 条件は何かという調査をされています。 その結果,第 1 位は副作用がないこと,つまり安全性だった。 次が降圧効果で,臓器障害をどれだけ予防できるかという回答はない。 ガイドラインが出たりして少し変わっているかもしれませんが, 日本では安全に血圧を下げることが重視され,Ca 拮抗薬が多くβ遮断薬が少ないという結果につながっていると思います。
島田 降圧治療でどの程度降圧レベルが達成されているのかという問題があります。久代先生,これについてはいかがですか。
久代 健診時血圧については平成 12(2000)年循環器疾患基礎調査で,140/90 mmHg 以上の割合は男性 51%,女性 39%となっていますから,降圧目標値以上の人がけっこう多いようです。 降圧目標達成率については,数年前の高血圧学会で,140/90mmHg 未満への達成率が 1/4 程度と発表されていました。
欧米諸国ではアメリカが比較的高いほうで,140/90 未満を達成しているのは 27%,カナダが 16%,イギリスは 6%というデータがあります。 また,最近報告された欧米各国の大規模疫学調査による国民的な血圧平均値と心血管系疾患に関するデータでは, 血圧の平均値と脳卒中発症率が相関することが示されています(図1)。 欧州全体の収縮期血圧の平均値は米国より 20mmHg くらい高いのですが,米国のほうが高血圧治療の普及と降圧目標達成率がよいためだと考えられます。 日本の年齢調整脳血管疾患死亡率が 50/10 万人前後で,循環器疾患基礎調査による血圧高値例の頻度がこの図式に当てはまるとすると, もっと積極的な降圧療法により降圧目標達成率が改善すれば,脳卒中発症率は下がる可能性があります。
島田 日本人は高血圧に敏感だと思われていましたが,副作用を気にするあまり十分に治療されていないということでしょうか。
齊藤 私も先行研究を調べたことがあります。 1 つは鳥取の心臓専門医による約 900 人のデータですが, それですと 140/90 の達成が 41.5%という成績です。 それから最近,Hypertension Research に発表した私たちのデータでは,140/90 達成が 53%です。 ですから,25%よりはもう少しよいと思っています。
島田 やりようで,もう少し達成率を上げることができると。
久代 私もそう考えています。