栗田 ICD の効果,メリット,デメリットなど ICD を入れる前にはいろいろな説明が必要です。患者にどのように説明をされていますか。
池口 将来 MRI 検査を受けられないこととか,日常の電気器具や,街中の盗難予防装置のこと,車の運転についてなどさまざまな制約を時間をかけてお話しします。
特に予防的な ICD を入れた方の車の運転についてですが,従来は「運転しないで下さい」というだけでしたが, 半年間作動なし,意識消失もなし,予防的な状態のまま症状が出なければ現在は運転できる可能性が出てきました。そういう意味では 1 次予防の方にとっては少し道が広くなったという話はしています。
栗田 日本ペーシング・電気生理学会の合同検討委員会(不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成と適性検査施行の合同検討委員会)が 「5 月の学会のときに方針を出す」ということです。
池口 それが決まれば,診断書を書けます。
青沼 メリット,デメリットをきちんとお話しして,患者がそれらを考慮に入れたうえでどう考えるか,ということが大事だろうと思います。
庄田 1 次予防に関しては本当に難しいですね。しかし 2 次予防で絶対に ICD が必要な人に対してもどのように話をするかは重要です。 そのような患者は ICD が作動する可能性が高く,実際,作動があるたびにうつ状態になり自殺をした患者を経験したことがあります。 このような悲劇を防ぐための心のケアには本当に留意します。 「ICD ショックがかかってしまった」という気持ちのもち方ではなくて「これで 1 回命が助かった」という前向きな姿勢をもつように指導します。 「その時にはご家族の皆さんでお祝いして下さい」と。(笑)
この話をすると,ものすごく精神的な救いになるんです。 ICD ショックがかかった後でも「先生,本当によかったですよ」といって来られます。 しかし,1990 年代の ICD 初期の頃は「こんなけったいな重い器械を入れて患者さん,かわいそうだ」と自分たちが思ってしまい,それが患者に伝わるのです。 そうすると,作動するたびに患者の精神状態がうつ状態になっていきます。それをいまは反省しています。
栗田 私たち医療従事者の言葉ひとつで患者の気持ちも変わるわけですから, ICD を管理される医師や看護師が患者の気持ちを前向きにもっていくというのは非常に大切なことですね。 池口先生は現在「ICD 友の会」の活動も活発にされているようですが,患者同士のコミュニティの活動についてのお話があればお願いします。
池口 医療機関側での患者の精神的ケアも非常に大事ですが,一方では,患者同士でないとなかなか相談できないこともあります。 体験した人から「作動しても 1 回,2 回ならそれほどでもなかったよ」と聞けば,「そんなに心配しなくてもいいのか」と安心するでしょうし, そのように気分が和らぐと,実際に作動したときもそれほど大きな苦痛を感じずにすむこともあります。 管理を要する ICD 治療にとって患者組織は,非常に重要な存在だと思います。全国的に普及してほしいと思います。
栗田 日本人は繊細な面がありますから,そういう部分のサポートも非常に大切だと思います。
青沼 患者は作動に対する恐怖感を強くもっていると思うのです。 それで,VF に対しては,意識がなくなった後に作動するように心がけて治療するようにしたところ,最近は恐怖感をもたれなくなりました。 「いつ作動したのかな」というぐらいの方のほうが多いですね。
栗田 私どもはそういう方法を「青沼法」と呼んでおります。(笑)
失神することに対する恐怖感はないのですか。
青沼 「失神しても大丈夫」と説明して安心感をもたせます。 「ICD が作動したときにショックを感じて,それで死ぬかと思った」という人が多く,ショックの恐怖感があります。
庄田 失神して怪我をすることはないですか。
青沼 症状が出たら必ずしゃがむなど,安全な体位,姿勢をとるよう指導しています。 われわれのデータでは VF が起こってから 12 秒程度で失神します。 8〜10 秒ぐらいはまだ意識がはっきりとありますので,その間に危険回避行動をするように指導しておりまして,それでうまくいった症例を何例か経験しています。
栗田 なかなかユニークな方法だと思います。
本日は実りの多い座談会になりました。私自身も本当に勉強になりました。 日頃の診療に自信をもって,皆さんと一緒に患者のために頑張っていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。