大田 最後に,今後,治療に関して期待されることについてお話しいただきたいのですが。
国枝 この病気は呼吸器内科,循環器内科など内科だけの問題ではなく, 整形外科や婦人科,泌尿器科など広い範囲にわたるので,広く多くの医師に認識をもってもらうことが必要です。 しかし,まだまだ認識が薄く,急死したりして訴訟問題に発展している例もあります。 今後,手術を行う場合,どのような症例に注意しなければならないかということも含めて,ガイドラインづくりが必要だと考えています。
そのときに最も問題になるのは,1 つは急性肺血栓塞栓症で,発症と同時に致死的になります。 もう 1 つは慢性の肺血栓塞栓症で,肺高血圧が残ります。その 2 つが問題で,急性肺血栓塞栓症は発症と同時に致死的にならなければ対策はいろいろとあり, 特に予防に力を入れる必要があります。
大田 きょうは内科の先生方の座談会なので話には出てきませんでしたが,かつては手術台で亡くなる方が 8 割ともいわれ,非常に危険な手術で急性期を乗り切らなければなりませんでした。 症例によっては今でも血栓除去術は捨てがたく,根治につながる場合もあり,そのあたりについて最後に触れていただければと思います。
国枝 外科療法には,血栓除去術(thrombectomy)と血栓内膜除去術(thromboendarterectomy)の 2 つの術式があります。血栓除去術は,急性肺血栓塞栓症に対して行われ,肺血管を開いてなかにある塊を取り出す手術で, 今の心臓外科のレベルではやさしいほうです。また,急性肺血栓塞栓症は早く診断さえすれば,必ずしも手術をしなくても内科的に治ると私は考えています。
問題は,慢性の肺血栓塞栓症の場合で,両肺血栓内膜除去術が行われます。慢性の肺血栓塞栓症を救うには非常に有効ですが, とても難しいもので,日本でもごく限られた施設でしかできません。
大田 急性の肺血栓塞栓症を中心に診断・治療について,いろいろなお話が聞けました。 病気のことを疑うことから始まって,できるだけ早いタイミングで治療を開始すれば,外科療法といった危険なところまでいかなくても,患者は救命されるのではないかと思います。 これから診断について,あるいは治療について,進歩の期待できる分野かと思いますが, そのためにもわれわれが,この病気のことを知って,この疾患が疑われるときにきちんと対応することが必要であると改めて認識することができました。きょうはどうもありがとうございました。