山口 狭心症患者の診察は最初外来から始まりますが,どういう人を入院精査や治療にもっていくか, あるいは診断後または治療終了後に外来でどうケアするかという問題はなかなか難しい問題を含んでいます。 今日はそのあたりを中心にお話をうかがいます。
山口 やはり難しいのは診断でしょうが,胸痛を訴えてきた人の中で本当に虚血性心疾患である人は 20%ぐらいという話も聞きます。 豊岡先生,胸痛のある患者で非定型的なものは別として,狭心症が疑われるような場合,どういうことを念頭に鑑別されますか。
豊岡 いちばん大切なのは患者の症状と病歴だと思います。それを丁寧に聞く。 例えば労作狭心症や冠攣縮性狭心症は一般的には中高年の患者が圧倒的に多いのですが,特に中年女性の場合,必ずしも不定愁訴と取らないことです。 丁寧に話を聞いた結果,狭心症の疑いでカテーテル検査までいったことが,私の経験では 70%ぐらいあります。
山口 狭心症の疑いがある人の中での割合ではなく,胸痛を訴えてきた患者全体における狭心症の割合はそれほど多くないと思いますが。
豊岡 多くないですね。特に年齢が若い場合ですね。
山口 鑑別の難しい中年の女性の胸痛をどう鑑別するか,そのあたりを教えてください。
豊岡 非常に難しいところです。丁寧に病歴を聴取した後は,外来で運動負荷試験をして,心電図でまず労作性狭心症かを鑑別します。
山口 悩むのはマスター 2 階段の運動負荷試験程度の負荷をかけても陰性の場合です。 例えば ST が水平に近く 1 mm 弱ぐらい下がった場合,先生はどう考え,どう進められますか。
豊岡 空振りになるかもしれないという条件付きで,カテーテル検査を受けるよう説得します。 女性の場合,再現性のない ST 低下が多いと思います。
山口 検査を繰り返すことは大切だということですね。
豊岡 そうです。不安定狭心症らしくなければ,症状日誌をつけていただき, 2 週間後に運動負荷試験,具体的にはトレッドミル多段階負荷試験をしてもらいます。
山口 住吉先生,中年女性で偽陽性のことがわりに多いことについて,どうお考えですか。
住吉 たしかに中年女性の場合は不定愁訴が多く,また運動負荷心電図の偽陽性が多いという診断上の難しさがあります。 高コレステロール血症や家族歴などの冠危険因子がなければむしろ狭心症でないことのほうが多い中で,いかに本物の虚血性心疾患を鑑別していくかということになると思います。 運動負荷心電図が陽性で冠動脈造影が正常であっても運動誘発性の冠攣縮性狭心症のように必ずしも「偽陽性」とはいえない場合もあります。 また“microvascular angina”という通常の造影では確認できないレベルの心筋虚血の概念もあり,これは女性に多いといわれています。 したがって鑑別にはやはり詳細な問診が重要だということになります。
住吉 労作時に胸部症状がはっきり誘発され,持続時間も数分であるといった典型的な特徴を備えていればほぼ狭心症と考え, 検査を進めやすいのですが,むしろ安静時にも起こる,家事ぐらいの労作で起こる,しかし階段では必ずしも起こらない, 好発時間帯が日中であったり夜であったりするなど,診断に苦慮する例のほうが外来では多いわけです。
そういうときには,使用法や副作用をよく説明したうえで,ニトログリセリンを携帯していただきます。 そして,症状日誌を渡して前向きに詳しく書いてもらいます。 そうすると,「チクチク,ドキドキした,2〜3 時間あるいは半日続いた,数秒間症状があった」というような記述が出てきます。 2 週間分ぐらいの日記を参考にしたり,はっきりした症状があったときの舌下錠の効果などから不定愁訴をかなり鑑別できると思います。
山口 不定愁訴や単なる非定型的な胸痛の症状に対する典型的な言い方は「チクチク」などという表現ですか。
住吉 あるいは「数時間,何となく重苦しかった」というのもあります。
山口 時間が長いのですね。
住吉 それからニトログリセリンが効かない。 効いたといっても,よく聞いてみると 30 分ぐらいたって効いたというものもあります。
山口 10 分以上かかって効いたというのは,やはり効かないと考えていいですか。
住吉 スプレーの場合はすぐ効いてきます。 舌下錠でも溶解後は 2,3 分で効きます。10 分たって効いたというのは有効かどうか疑問です。 昔はプラセボを用いることもありましたが,いまはそれはやりません。
山口 中年女性を典型例として出しましたが,若年であれば胸痛は非虚血性心疾患のものもわりとあると思います。 そのあたり,豊岡先生が鑑別で特に覚えている例がおありですか。
豊岡 勤務の関係上,相手が学生のことが多いので,99%以上の確率でないだろうとは思っていますが, まずエコー検査で MVP(僧帽弁逸脱症)を鑑別して,MVP がないときには運動負荷をかけてみますが,多くの場合は何も出てきません。
山口 エコーでのいちばんのチェックのポイントは,prolapse と心臓肥大ということですね。