山口 心電図や核医学検査で虚血がはっきり捉えられ,狭心症と診断できたら, 冠動脈造影をして基本的な治療方針を決めることになります。冠動脈造影の安全性はそれほど高くなったといえます。 インターべンション治療を受けるまで,あるいはバイパス手術を受けるまで,あるいは外科的治療ができない病変の場合, 薬物治療となりますが,その際には抗狭心症薬として硝酸薬,β遮断薬,Ca 拮抗薬が用いられます。
まず最初に,硝酸薬は日常生活の QOL も改善しますし,使い方によっては診断にも有用です。 ニトログリセリンの舌下錠の使い方ですが,劇薬だからできるだけ使わないという先生もおられますが,専門家の先生はどんどん使いなさいと言っています。 住吉先生は患者に対してどう話されていますか。
住吉 診断を確認する際の使用でも,あるいは侵襲的治療を選択しない患者の QOL を改善する使用においても, ニトログリセリンは非常に大事な薬です。薬理作用に基づく有害事象を熟知して使用法さえ誤らなければ,有用性は高いと思います。
山口 いちばん気をつけている有害事象は何ですか。
住吉 血圧低下です。高齢者では特に気をつけなければなりませんが,若い人でもなめたあと血圧の低下を来すことがあるので, その機序と対処法を先によく説明しておく必要があります。
山口 服用してはいけない状況をあげるとすれば何ですか。
住吉 脱水が疑われるような状況です。食事をしていなくて,汗をかいた後や,立ち放しだったときなどです。 もし低血圧の症状がでても,横になって頭を低くしていればまもなく治りますよと話しておきます。
山口 もともと低血圧のある人も注意が必要ですね。
住吉 そういう注意さえわかっていていただければ,私はむしろ積極的に使用することを勧めています。
山口 どういう使い方を指示していますか。発作の前に飲むのか,起こりそうなときに飲むのか,あるいは,発作直後に飲むのか。
住吉 発作があったときは必ず使いなさい, それから,誘発する動作(具体的には,坂道,排便,食後の労作など)がわかっていたら前もって予防的に使いなさいといっています。 特に重症の狭心症で,硝酸薬,β遮断薬,Ca 拮抗薬の 3 者を併用しても,やはり症状が残る患者には定時薬をさらに増やすのではなく, 舌下錠やスプレー剤を増量し,動作前の積極的な使用を勧めています。
山口 重症というと三枝病変ですか。
住吉 三枝病変がほとんどですが,重症であればあるほど,それが大事です。それによって患者の QOL が向上することが非常に多い。患者はなるべく使わないようにしたいとか, 使ったらよくないとか,癖になるなどと心配されますが,そんなことはないと何回でも説明します。
山口 1 日に何回使っても耐性は気にする必要はないのですか。
住吉 舌下錠やスプレーなど超短時間作用型であれば耐性はまったく気にする必要はありません。 1 錠 0.3 mg をピンポイントで 10 回使っても,毎日服用する長時間作用型の薬を倍にするよりはずっと効率がいいわけですから,そのことを患者によく説明します。
特に高齢者でインターベンションができなかったり,再手術が困難な患者には,いちばんいい治療法ではないかと思います。
山口 豊岡先生はいかがですか。
豊岡 硝酸薬はショットガンだと思っていました。
山口 ピンポイントで使うのはとてもいいと思いますが,舌下錠とスプレーとではどう使い分けていますか。
豊岡 私はあまりスプレーを使った経験はありません。
山口 住吉先生はどうですか。
住吉 スプレーは渡したときに使い方を必ず丁寧に指導します。使い方さえ誤らなければ,携帯の不便さはありますが, 舌下錠よりはいいと思います。特に高齢者で口が渇いているような状況のとき,それから早く効かせたいときは明らかに血中濃度の立ち上がりがよいです。
いちばん気をつけなければならないのは,しばらく使っていないときに出が悪いことがあるので, 1 回空打ちをしてから使うことです。
山口 私も,ほとんど毎日ニトログリセリンの舌下錠を使う患者では,スプレーのほうが使いやすいと思います。 しかし,たまにしか発作が起きない人には,やはりスプレーは勧めません。
住吉 念のため携帯していただく場合は舌下錠です。
山口 要するに頻回に発作を起こしてスプレーに慣れている人でないと,あまり勧められないのですね。
住吉 それから有効期限がありますから,ほとんど使わないのに 100 回分を無駄に持つというのはよくないかもしれません。
山口 まれに使う人にとっては,舌下錠は飲んだとき服薬感がありますが,スプレーではないので, 効かないというのでつい回数を多くし,あとになって効いてきてドンとひっくり返るという例は珍しくありません。
それから硝酸薬の服用による頭痛には,何かいい策がありますか。
住吉 頭痛は,最初強いけれども慣れてくる人が多いです。 それに,本当に硝酸薬が必要な場合は,私は鎮痛薬を使ってでも服用してもらいます。
豊岡 われわれは学生にも舌下錠を体験投与させることがあります。