■治療学・座談会■
高血圧治療ガイドラインの評価
出席者(発言順)
(司会)島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科 教授
久代登志男 氏 駿河台日本大学病院循環器科 助教授
平田恭信 氏 東京大学医学部循環器内科 講師

降圧目標の設定

■ 高齢者の降圧目標における問題点

島田 高血圧患者の降圧目標は130/85mmHgにしましたよといわれても,達成するのは至難の技です。 現状で,高血圧患者のコントロールラインが130/85mmHg以下になっていますかときかれたら,おそらく相当数が上回っているといわざるをえません。 ですから,これも理想論的な部分ではないかと思います。

 しかし,本当にそれぐらいまで下げていれば,腎障害や心不全,脳血管障害などは発症しにくいかもしれません。 特に高齢者では,そこまでやると臨床的にいろいろと問題が生じてくるケースが予想されるので,60,70,80歳代で, 血圧もそれぞれ140,160,170mmHgというようなかたちで底上げをしていますが,そのような考え方はいかがでしょうか。

久代 80歳以上の超高齢者は別として,60代,70代の人の降圧目標をどこに設定するか,難しい問題だと思います。 欧米のガイドラインはすべて140/90mmHgとなっていますが,日本は少し緩めてある。その背景には,日本での循環器学会, 高血圧学会などの臨床系評議員に対するアンケート調査に基づく降圧療法の現状が考慮されたこともあるようです。 しかし,日本と欧米で降圧目標が異なっているのもわかりづらいと思います。

■ どのように血圧を下げるか

平田 実際,このガイドラインを作るにあたって,いちばん揉めたところだと聞いています。 この部分は日本にエビデンスがないので,consensus basedになってしまったのでしょう。 実際の診療にあたっては,久代先生がいま言われたような状況を勘案し,少し緩めざるをえないところがあろうかと思いますが,あくまで目標は低いところに置くべきであり, それもゆっくり時間をかけて下げればほとんど問題ないというように,私は思っています。

島田 だから150mmHg未満にしろということは,別に150mmHgにとどまっておく必要はないわけで,140mmHgでも130mmHgでもよく, とりあえず150mmHgぐらいにしておき,それから様子をうかがいながら,最終的には140/90mmHg未満にするのがよいという考えでしょうか。

久代 私は,140/90mmHgと日本で示された150〜170/90mmHgの間はグレーゾーンで,主治医の判断が重要な領域だと考えています。 高齢者高血圧患者の血圧を一律に140/90mmHg以下にするのは問題ですが,患者が耐えられるにもかかわらず高めの血圧で維持するのも問題があります。 個々の患者の降圧限界を見極めて可能ならWHO/ISHやJNCガイドライン通りに降圧するほうがよいと思っています。

島田 そうすると,降圧薬は3剤は使用するようになるのではないでしょうか。

久代 そのときに,いかにゆっくり下げるかが問題になります。 何十年も高い血圧でいた人を, 数週間で下げてしまえば具合が悪くなる可能性もあるので,1ヵ月,数ヵ月の単位で下げていくことが必要だろうと思います。

島田 そのような,だんだん血圧を下げていく方式に関する標準的治療法はまだありません。 そこまでまだわれわれは精密な治療法を獲得しているわけではないので,このような理想的な血圧を目標にするのであれば, そのような治療法の開発も大事になるかもしれませんね。

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