SERIES●標準化へ向けてのRCT論文の書き方(1)

富山医科薬科大学 折笠 秀樹

Hideki Origasa : A Guide to Write the RCT Papers
Achieving a Reporting Standard of Clinical Trials (1)


 

臨床研究は重要である

 本邦では,臨床研究に対してあまり精力が注がれてこなかった。しかし,臨床研究を行わずして良い治療法は生まれてこない。これは悩む患者のために必須の研究なのに,残念ながらあまり重視されなかった。また,臨床研究といっても,医局のカルテを引きなおして集計結果を報告するようなものが多く,研究デザインで言えばレベルは決して高いとは言えなかった。表1に研究デザインの種類[1]を示したが,あまりにも観察研究または前後比較試験が多かった。また,研究デザインというものを意識してこなかったことも事実であろう。

 

表1 臨床研究デザインの種類

観察研究(調査)
●断面調査(Cross-sectional)
●症例対象調査(Case-control)
●追跡調査(Cohort)

介入研究(実験)
●前後比較試験(Self-controlled, Before-after)
●ランダム化比較試験(Randomized controlled trial,RCT)
 ・パラレル比較(Parallel comparison)
 ・クロスオーバー法(Cross-over)

メタアナリシス(統合)

 

 上で述べたように,臨床研究にもいろいろの型がある。それらは,研究デザインとその強さ(信憑度)という観点から整理されてきた。表2は英国保健省が示した水準の順位付けである。その最高位に位置するのがランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)である。それは一つの治療法だけを研究するのではなく,コントロール(比較)群を設けて,それと同時に比較する研究法である。しかも,どちらに当たるかは確率的(ランダム)に決めることで選択バイアスを防いでいる。RCTの歴史は50年足らずだが,現段階では治療法の善し悪しを判断する最良の研究デザインと言われている。

 

表2 治療・予防法の根拠水準

グレード

レベル

該当する研究デザイン

A

1a
1b
1c

一致した結果を示すRCTのメタアナリシス
狭い信頼区間を示すRCT
明白な結果

B

2a
2b
2c
3a
3b

一致した結果を示すコホート研究のメタアナリシス
コホート研究,低質のRCT(80%未満の追跡率など)アウトカム研究
一致した結果を示すケースコントロール研究のメタアナリシス
ケースコントロール研究

C

4
5

症例集積,低質の観察研究
単なる意見や経験

 

臨床試験論文の標準化とは

 本邦で行われてきたRCTのほとんどは,新薬開発のための治験(治療用臨床試験の略らしい)である。それらの論文を見ると,その報告の仕方は必ずしも満足の行くものではなかった。図表は多いし,あまりに細かすぎる。これでは報告書であって,研究者に読んでもらう論文ではないと思ってきた。利用者のためというよりは,承認審査のためと思えた。それに比べて,欧米の一流臨床医学雑誌に載る臨床試験論文はほとんど様式が同じであり,15分もあれば概要は理解できるようなものであった。このギャップは埋めなければならないと感じていたのである。

欧米の臨床試験論文は確かに読みやすい。特に,構造化抄録(Structured abstract)[2]を読めば,その概要は瞬時にわかる。情報もコンパクトに分かりやすく示されているが,この様式に至るのに大変な努力があったのである。バンクーバー・グループによる論文記載の統一規定の検討が1979年に始まったわけなので[3],20年を経て今日のような規定ができあがったことになる。この統一規定というのが,CONSORT声明として1996年に公表された[5]。このCONSORT声明は,RCT論文の書き方についての指針あるいはチェックリストといえる。本邦でも従来の報告書型の臨床試験論文ではなく,CONSORT声明に準拠した分かりやすい論文にすべきだと,筆者はずっと思ってきたわけである。

 本誌でも多くの臨床試験論文を掲載してきたが,いわゆる従来型の論文が多かった。しかし,こうした世界の流れを受けて,報告様式を国際標準に合わせていくという方針が示された。そこで,CONSORT声明に準拠して規定を作成するのが適当だと思った次第である。RCT論文の投稿規程を改変する作業と同時に,RCT論文を投稿しようとする読者に対する教育も1年かけて行うことにした。

 今回は,CONSORT声明が出るまでの歴史とその内容について簡単に紹介しておきたい。次回からは,国際標準の臨床試験論文はどのように書かれているかを,実例を挙げて解説する予定である。

 

CONSORT声明が公表されるまで

 1979年に,バンクーバー・グループによって,生物医学研究論文を作成するための統一規定の研究が開始された。これは何回かの改訂をへて,1997年1月1日,Annals of Internal Medicine誌にその最新版が公表された[3]。生物医学雑誌のバンクーバー様式というと引用文献の書き方を指すことが多いようだが,重複発表や倫理規定などについても言及している総合的な指針である。邦訳は本誌4月号[4]ならびにライフサイエンス出版ホームページ)に掲載されているので参照されたい。

 一方,臨床試験論文の標準的な報告の仕方については,Asilomar Working Groupというところで検討されてきた。このグループには,Journal EditorsとしてEdward J. Huth(Annals of Internal MedicineのEditor)やDrummond Rennie(JAMAのDepuity Editor)ら,StatisticiansとしてColin Begg, Sander Greenland, Ingram Olkinなどが含まれていた。さらにBiomedical investigatorsとしてJoseph Lauら,Biomedical editorsとしてSusan Eastwood(Neurosurgery)ら,そしてInformation scientistである図書館司書が含まれていた。1994年3月に会議を開き,統一規定について議論したのを受けて,1994年12月1日にAnnals of Internal Medicineから臨床試験論文の報告規定が出された[6]。さらに,同じグループは1996年4月15日のAnnals of Internal Medicineに,それを少し詳しくした規定を発表した[7]

 同じ頃,同じ目的をもった別のグループも詳細に検討していた。それは,The Standards of Reporting Trials Group(SORTグループ)と呼ばれていた。RCTの持つ問題点を認識した有識者が集まって組織されたのが,1993年10月であった。こちらのメンバーには医学雑誌の編集関係者は入っておらず,どちらかというと臨床疫学・生物統計学の専門家と臨床研究者が中心であった。たとえば,故Tom Chalmers(メタアナリシスの教祖),Peter Gotzsche, Andreas Laupacis, Andy Oxman(コクラン共同計画関連),David Moher, Stuart Pocock, Mike Clarkeなどの生物統計学者も含まれていた。このSORTグループもRCT論文の書き方に関するチェックリストを,1994年12月18日,米国医師会雑誌(JAMA)へ発表した[8]

 同じ目的のグループだということで,1995年9月には統合して議論することになった。そこで,名称も統合した(Consolidated)SORTグループということで,CONSORTとなった。生物医学雑誌編集者や臨床疫学・生物統計学者がメンバーに入っている。このCONSORTグループが,1996年8月28日にCONSORT声明を米国医師会雑誌(JAMA)に公表したのである[5]。JAMA副編集長のDrummond RennieはEditorialで,JAMA誌へRCTを投稿する者への勧告としてCONSORT声明の意義について述べている[9]。それを読むと,JAMAのstatistical reviewerはDouglas Altmanであることがわかる。

 その後,英国医師会雑誌(BMJ)でもCONSORT声明に準拠することを公表した(1996年9月7日)し[10],Annals of Internal Medicineでも同様のことを発表した(1997年1月1日)[11]。Lancet誌も同様の表明をしている。他の雑誌もこれに追随することが予想される。このようにして,生物医学雑誌においては,CON-SORT声明に準拠してRCT論文を書くのが国際標準になりつつある。従って本邦においても,このCONSORT声明に準拠するのが賢明であろうと考える。

 

CONSORT声明の内容

 http://www.sphere.ad.jp/cont/CONSORT_Statement/menu.htmlに,CONSORT声明によるRCT論文投稿のためのチェックリストを示した(で得られる)。なお,英文原著については,http://www.consort-statement.org/から得られる。CONSORT声明は,http://www.sphere.ad.jp/cont/CONSORT_Statement/menu.htmlに示したようなチェックリストとフローチャート(被験者の流れ図)から成っている。この内容についての事例に基づく解説は次回にするが,本邦の臨床試験論文の書き方とは異なるところを少し述べてみたい。

 第一には,抄録は構造化抄録[2](筆者は従来メニュー式と呼んできた)を用いる点があろう。これにより瞬時に概要は掴めるようになった。次に,副見出しの付け方も従来とは相当違うだろう。その他の点では,これを見る限り違いはなさそうである。しかし,次回以降解説するつもりだが,図表の作り方は見た目ですぐ分かるほど異なっている。CONSORT声明に準拠した雑誌であるJAMA, BMJ, Lancet, Annals of Internal Medicineなどでは,RCT論文の報告様式はほとんど統一されている。

 

おわりに

 臨床試験の結果というのは,病気の治療法を決定する最も重要な臨床研究である。残念ながら本邦における新薬の承認申請に,臨床試験を論文化することは必須でなくなった。これには二つの問題がある。臨床試験は科学的な研究であり,研究者はいかなる結果でも研究結果を公表しなければならないが,それに反するのが第一点である。もう一つの問題は,すべての研究は出版しないと,研究成果を統合した研究では出版バイアスを引き起こすことがある。出版されなかった研究を引用するのは困難なので,結果を問わず論文にすべきなのである。

 一方で,多くの臨床試験が国際的に出版されている現状もある。そこで,臨床試験の結果を首尾よくまとめる,Medical Writingsという領域が注目を集めている12)。研究者もCONSORT声明をよく理解し,RCT論文の統一規定に従って論文を書かねばならない。欧米誌でも国内誌でも,論文の書き方が統一されれば好ましいことであろう。統一され,しかも分かりやすければ,論文を読む側にとっては助かる。本邦の臨床試験論文は確かに様式は統一されていたが,欠点として図表が煩雑で多く読みにくい点があった。

 本誌はCONSORT声明に準拠し国際標準の報告へ進むことになるので,ぜひ次回以降の解説でよく勉強していただきたい。

 

引用文献

1) 折笠秀樹.臨床研究デザイン.真興交易医書出版部;1995.

2) 青木仕.Structured Abstractsの概要とわが国における活用の可能性. 医学図書館 2000; 47: 52-60.

3) International Committee of Medical Journal Editors.Uniform requirements for manuscripts submitted to bio-medical journals. Ann Intern Med 1997; 126: 36-47.

4) 医学雑誌編集者国際委員会.生物医学雑誌への投稿のための統一規定(第5版). 薬理と治療 2000; 28: 341-8.

5) Begg C, Cho M, Eastwood S, et al. Improving the quality of reporting of randomized controlled trials-The CONSORT statement. JAMA 1996; 276: 637-9.

6) Working Group on Recommendations for Reporting of Clinical Trials in the Biomedical Literature. Call for com-ments on a proposal to improve reporting of clinical trials in the biomedical literature. Ann Intern Med 1994;121:894-5.

7) The Asilomar Working Group on Recommendations for Reporting of Clinical Trials in the Biomedical Literature.Checklist of information for inclusion in reports of clinical trials. Ann Intern Med 1996; 124: 741-3.

8) The Standard of Reporting Trials Group. A proposal for structured reporting of randomized controlled trials. JAMA 1994; 272: 1926-31.

9) Rennie D. How to report randomized controlled trials: the CONSORT statement. JAMA 1996; 176: 649.

10) Altman DG. Better reporting of randomized controlled trials: the CONSORT statement. BMJ 1996; 313: 570-1.

11) Freemantle N, Haines A, Eccles M. CONSORT: an impor-tant step toward evidence-based health care. Ann Intern Med 1997; 126: 81-3.

12) Goldmann DR. Medical writings: a new section for Annals. Ann Intern Med 1997; 126: 83.