10年前,それまで上昇を続けていた日本人の総コレステロール値がついにアメリカと並び,子どものコレステロール値はアメリカを上回ってしまっていることは,意外と知られていません。日本の0〜19歳の平均コレステロール値は,1960年が159mg/dl,
1990年が170mg/dl, 2000年が183mg/dlと着実に増えています。これは,ひとつには日本の子どもたちの食生活が,大人に比べて脂肪分の多いものに変わってきたためです。厚生労働省の基準では,摂取カロリーに占める脂肪分は25%が好ましいとされていますが,若年層ではこれを超え,アメリカと同じ30%に達しています。また生活様式の変化による運動不足が,この状況を助長していることも見過ごせません。
日本人の動脈硬化は現在ではそれほど多くは見られませんが,このままの状態が続くかぎり,子どもたちが発症年齢に達する20〜30年後には,重大な局面を迎えるであろうことは確実視されています。
私達は子どもや子孫をこの危機から救うため,草の根的な啓発活動を始めなければなりません。アメリカでは国家的プロジェクトのフラミンガム研究を通じて,一般市民と医療者が一体となり,同じような健康上の危機を見事救った実績をもっています。日本にも,フラミンガム研究を手本とすべき状況が到来したのだと思います。この番組によって,多くの方に危機の実態を知っていただきたいと思います。
(監修者/帝京大学医学部内科教授 寺本民生)
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取材を終えて◆
「このままでは日本人の血管が危機に瀕する可能性があります。私たちはTV番組を通じて,この問題を取り上げたいのです。フラミンガム研究を手本としながら。」
こちらからの取材申し入れに,米国のフラミンガム研究機構はいともあっさりと協力を約束してくれ,スタッフを喜ばせると同時に少しばかり拍子抜けさせました。それと言うのも,この世界的に有名な研究所は,これまで海外からの取材は勿論のこと,国内メディアに対しても内部事情の漏出を厳しく制限してきたからです。不用意な情報公開によって研究にバイアスがかかったり,参加者のプライバシーが侵されることによって研究運営に支障が生じるのを避けなくてはならないからです。ガードの固さで鳴る研究所が今回の取材目的に共感してくれたことで,改めて私たちは,彼らの循環器疾患予防にかける強い意気込みを感じることが出来ました。
テレビカメラに向かって歯切れ良い私見を述べてくれたKannel博士,Castelli博士,Levy博士らの歴代ディレクターたち。ふだんは決してメディアに日常の姿を曝すことのない老若の参加市民たち。そして参加者たちが脱落せぬよう支え続けてきた陰の推進役コーディネーターたち。
予備調査を含め,約1ヵ月間にわたる取材から私たちが肌で感じとったものは,子孫のために数十年間地道なルーチンワークを続けてきた医師や研究者たちの忍耐力と,進んで研究に参加してきた市民たちの圧倒されんばかりのプライド,そして彼らによって支えられてきたこの偉大な国家プロジェクトに対する畏敬の念でした。
残念ながら,番組では取材内容の1割程度しかお伝えすることが出来ません。
詳細は近刊書籍『The Framingham Heart Studyの証言(小社より2004年4月刊行予定)』を手にとっていただければ幸いです。
(プロデューサー/ライフサイエンス出版 武原信正)
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