■治療学・座談会■
アディポネクチンの現状と未来
出席者(発言順)
(司会)黒川 峰夫 氏(東京大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学)
清井  仁 氏(名古屋大学医学部附属病院難治感染症部)
木村 晋也 氏(佐賀大学医学部医学科内科学講座血液・呼吸器・腫瘍内科)
山下 卓也 氏(がん・感染症センター都立駒込病院血液内科)

白血病治療の展望

■第 2 のイマチニブを求めて

黒川 今後は,どのような治療が導入されると予想されているでしょうか。 まず,チロシンキナーゼ阻害薬は,今後どのように発展する可能性があるでしょうか。

木村 CML も治癒する可能性があります。 当初,イマチニブ単剤では完治は難しいのではないかと言われていましたが,実際,フランスのグループが, 分子遺伝学的完全寛解(complete molecular response:CMR)を丸 2 年以上継続した患者に対してイマチニブを中止する臨床試験を行ったところ,約半分の人は中止後 3 年経過しても再発しない, 治癒していると考えられる例が出てきています。

 現在,CML 患者にはイマチニブを一生服用するように指導していますが,そのコストたるや莫大です。 たとえば 40 歳からなら,マンション 1 軒が十分買えるくらいの自己負担となります。それは単に病気を治すだけではなく,患者さんの QOL や生活を考えると,非常に大きな問題です。 国の財政を考えても大問題ですから,次の段階として,いかに早く,いかに多くの人の服薬を中止できるようにするか。 現在 4 割程度なので,それを 9 割,9 割 5 分と,検査法の進歩とともに,服薬中止可能な患者をしっかり見きわめるという時代に入っていると思います。

 同様に,ダサチニブ,ニロチニブという第 2 世代,その後のボスチニブ,われわれの開発したバフェチニブと,次々と新薬が開発されてきています。 これらの新規薬剤をうまく使用することで数年の服用で 9 割 5 分は治るという時代が,来てほしいと期待しています。

 ただ,第 2 世代の薬もまだ大きな問題が 2 つ残っています。1 つは,ゲートキーパー変異と言われる T315I です。 第 1 世代のイマチニブが無効になって第 2 世代をしばらく使用していると,T315I の変異が現れ,薬が無効になることがあります。 こういうものに関しても,一部,オーロラ阻害薬や PHA−739358,われわれが最近報告した AT−9283 などのマルチターゲットな阻害薬が有効であるということがわかってきています。 これらの臨床試験が進めば,現在 T315I が出現すると移植しかありませんが,薬剤でまた治癒の方向にもっていける時代も来るかもしれません。

 CML は薬物療法でもかなりの成果を得られるかもしれませんが,より早く完治に導くためには,leukemic stem cell をやっつける方法を考える必要があるかと思います。

黒川 現在,白血病治療はどんどん目標が高くなっていますし,目標に近づく進展もみられています。 一方,急性白血病はいま種々の方向を模索しているという状況とも言えますが,いくつか例をお話ししていただけるでしょうか。

清井 イマチニブの成功は,分子標的療法の有効性と正当性を証明したということで,第 2 のイマチニブ探しが活発に行われています。

 ただ,急性白血病の場合には,細胞増殖促進に関係する遺伝子変異だけでなく,細胞の分化抑制に関わっている転写因子の異常も積み重なっていることが非常に大きな問題です。 レチノイン酸がホルモンの受容体である RARA を標的としたことは例外的であり,なかなか転写因子を標的することは難しいというのが現状だと思います。

 ですから,どうしても急性白血病で活性化変異を起こしているようなチロシンキナーゼを標的とする, あるいは B 細胞性リンパ腫で標的としているような細胞表面分子に対する抗体療法が中心になると思います。 そのなかで,成人 AML の約 3 割に活性型変異を起こしている受容体型のチロシンキナーゼ FLT3 を標的とした選択的阻害薬の開発が最も期待されています。 これまでに数十種類の FLT3 阻害薬が開発されてきていますが,臨床試験が行われたなかで単剤で有効性が示されているのは,AC220 という阻害薬だけなのです。 第 I 相試験が終わっていますが,単剤で FLT3 変異陽性の再発難治 AML に CR(完全寛解)あるいは CRp(血小板の回復を伴わない CR)が得られています。 ただ,QTc 延長の有害事象があるようですので,第 II 相試験の結果が期待されます。

 しかし,長期的にみると,FLT3 阻害薬単独での治癒は難しいことから,化学療法との併用での有効性も検討されています。 化学療法との併用で優れた治療効果をあげているものとしてソラフェニブがあげられます。ソラフェニブ単独での治療効果は認められていませんが, 化学療法との併用により,FLT3 変異陽性再発 AML に対して 100%の CR が得られています。 単剤がよいのか,化学療法との併用がよいのか,問題点は残されていますが,現在最も期待される治療標的分子であり,今後,FLT3 阻害薬の臨床応用が進められていくと思います。

■臍帯血移植への期待

黒川 薬物療法が進歩しても,造血幹細胞移植は特別な意味をもっていて,血液内科医のもうひとつの治療の柱というイメージもあります。 移植法の種類とその特徴を,簡単にご説明いただけますでしょうか。

山下 造血幹細胞移植は,自家移植と同種移植の 2 つに分けられます。 ただ,白血病での自家移植の適応は非常に限られています。 急性前骨髄球性白血病の第 2 寛解期に自己末梢血幹細胞を採取して移植するという自家造血幹細胞移植の有用性はエビデンスとして確立し,欧米では標準的治療となっています。 日本でも臨床試験が行われていると思います。

黒川 第 2 寛解期は,1 回再発して再度寛解に入ったという症例ですね。

山下 それ以外でも,CBF 白血病に対する自家移植で,非常に良い治療成績をあげたと報告しているグループもあります。 いずれにも共通することは,採取した幹細胞の中に白血病細胞の残存が検出されないことが前提になっています。 それ以外に,AML 治療の地固め療法と言われる治療のなかに,自家造血幹細胞移植を組み込むことによって,非常に高い成績をあげているという報告もあります。 いずれにしても,自家移植が急性白血病の標準的治療法のなかに組み込まれてくるかどうかについては,今後,検証していかないといけないと考えています。

 ただ,自家移植のメリットは,同種移植に比べて治療関連合併症が少ないことです。要するに GVHD に関連する合併症がないので,この点には意義を見いだせるのではないかと,期待をしています。

 同種移植の適応は,基本的には化学療法に対して難治性の急性白血病です。CML については,先ほどからのお話では移植の適応はほとんどなくなってしまうかもしれませんが, T315I 変異を有しているものや,加速期,急性転化期を経た CML の一部については,まだ同種移植の適応はあるかなと思っています。

黒川 同種移植でも,骨髄を使う場合や末梢血幹細胞を使う場合もありますね。最近では臍帯血を使うケースも増えています。 そのあたりは,どのように考えておけばよろしいでしょうか。

山下 同種移植の場合,基本的には HLA が適合した血縁のドナーを得られるのであれば,そのドナーから提供を受けて移植をするのが第一選択だと思います。 血縁者間の移植で骨髄移植をするのか,末梢幹細胞移植をするのかという選択は,ドナーと患者の状況や,それぞれの移植の造血の回復時期の違いや, 移植後の GVHD の頻度の違いなどを考慮して,総合的に判断することにしています。

 ただし,最近の核家族化の傾向を考えると,血縁で HLA の適合した同胞ドナーが得られる確率は低下していると思います。 数年前のデータでは 30%くらいと言われていましたが,現在ではさらに低下していると思います。 今後は多くの移植適応となる患者さんに対して,基本的には非血縁ドナー,つまり骨髄バンクで HLA が適合する非血縁の提供者を探すということが標準的になるかと思います。

 現在の骨髄バンクのドナープールにおいて,HLA が適合するドナー候補が見つかる確率は,80〜90%と言われています。 しかし,実際に骨髄バンクに登録した患者さんで移植まで到達する人は,現時点では 30〜40%にとどまっています。 この理由のひとつとして,骨髄バンクでは登録からドナーの骨髄提供を受けるまでに要する時間が非常に長いことがあげられます。 その間に患者さんの病気の状態や全身状態が悪化して,移植に到達しえないということが,現在でも大きな課題となっています。

 近年,急速に普及している臍帯血移植という治療法について説明します。 臍帯血とは,分娩時の臍帯や胎盤に含まれている血液で,その血液中に豊富に存在している造血幹細胞を採取後に凍結保存します。 現在,全国に 30000 ユニットぐらいが保管されています。臍帯血移植は,あらかじめ保存されている幹細胞の中から,HLA が比較的適合したものを用いて移植をするわけですから, 骨髄バンクのようにコーディネートの期間がいらないという大きなメリットがあります。 一方で臍帯血移植は,移植後に造血が回復するまでに時間がかかるというデメリットもあります。

 骨髄バンクを介した骨髄移植と,臍帯血移植の移植成績の比較は非常に難しいのですが, たとえば,ALL であれば移植成績はほぼ同等であるという後方視的研究の報告があります。 大切なことは,骨髄バンクか,臍帯血かという比較の問題ではなくて,個々の患者の状況と病態に応じて,適切な幹細胞源を選んで移植を行っていくということだと思っています。

黒川 今後の移植治療では,どういう問題をクリアしていくべきなのか。いくつかご説明いただけますか。

山下 私は,患者さんに移植という治療を説明するときに,乗り越えなければいけない 4 つの壁があると話しています。 1 つめは移植の前治療に関連した合併症,2 つめは移植後に造血が回復するまでの感染症,3 つめは GVHD,4 つめは移植後の再発です。 今後,それぞれの壁を少しでも低くして,この治療に伴うリスクをより少なくすることによって,治癒をめざせる患者さんを増やしていくことが,われわれ移植医の役割だと考えています。

 たとえば,移植前治療では,各患者に応じた強度,すなわち,ある程度の抗腫瘍効果を有し,かつ毒性が少なく安全に実施できるものを開発する必要があります。 新規薬剤であるクロファラビンを用いた移植前治療などが開発されていくと思います。

 また GVHD についてですが,現在,われわれが予防や治療で使用できる薬剤は,非常に限られています。 しかし,実際には免疫抑制効果を有し,GVHD 治療で有用な薬剤は多数知られています。 たとえば,他の臓器移植で用いられているラパマイシンや MMF は,海外の臨床試験で有望な成績が報告されています。 わが国でも,現在開発が進められている mesenchymal stem cell など,GVHD に対する新規薬剤の開発を進めていく必要があるかと思います。

 移植後再発は大きな問題です。いまだに,移植後再発に対する有効な対処法は確立されていません。 たとえば,Ph+ALL の移植後に再発の治療として TKI を用いたり,あるいは,移植後に予防的にも TKI を用いたりするということも考えていく必要があるかと思っています。

黒川 白血病は,悪性腫瘍のなかでも抗がん剤だけでかなりの治療成績が上げられますが, それだけで満足せず,分子標的療法と言われるような治療をどんどん開発し,実際に成功例も現れています。 また,移植治療と組み合わせたり,あるいは両者を使い分けたりすることによって,種々の角度から治療を行い,成果を上げています。 白血病はがんの領域において,ある意味で先進的治療のフロンティアを切り開いているのではないかと思います。

 今後も,この領域は治療の発展が期待できますので,ぜひ注目していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

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