佐藤 治療目標について,ご意見をいただきたいと思います。
京谷 以前は,PH はおしなべて予後の悪い疾患で,初診から死亡までの期間が半年以内のこともありました。 その時代には,1 日でも生存期間を延ばすことが目標でした。 エポプロステノールが積極的に使われるようになると,画期的に生存期間が改善し,可能なかぎり予後を延ばすことが期待されるようになりました。 治療目標は変わりつつあることは確かです。
松原 基本的に私たちも同様で,「生存してもらう」ことが目標です。 それが 1 年後,5 年後,10 年後なのか,はたまた一生なのかという違いです。 当初は,最低 5 年は生存してもらわないと移植が受けられないという考えから出発しました。 そして,治療を受けた人が 10 年たっても治療開始時より良い状態で生存されるようになったのはなぜかという解析から, エポプロステノールの大量使用へと進みました。なるべく長く生かしてあげたい, そのためには結局何が必要だったのかと言えば,血行動態の改善が得られている人, 極論すると正常値に近い状態になっていった人が該当するので,われわれは可能なかぎり正常化をめざしています。
佐藤 具体的にはどういう目標になりますか。
松原 心拍出量を正常に保ったうえで,平均肺動脈圧で 30 mmHg 以下をめざしています。 ただ,エポプロステノールを使用せざるをえない人では,一気にそこまでに下げるのはなかなか難しく, 現実的には 40 mmHg を少し切れる程度となります。 エポプロステノール治療をしている人のほぼ 1/3 は,30 mmHg を切れる状態にはもっていけると思います。 40 mmHg を切れないような人をずるずると継続していると,再度悪化し,次の治療を行っても効果がみられないことが多いので, 最悪でも 40 mmHg 未満を目標にしています。
国枝 医療経済的な問題もありますが,効果がある薬剤が現れたわけですから, エポプロステノールは最大忍容量まで使って,治癒の方向で明らかに改善が見込めるレベルにまでもっていくことが本当の方針だと思います。
佐藤 私たちは,肺血管抵抗を最低限 10 単位以下とし,最近は 5 単位以下を目標にしています。 肺動脈圧と肺血管抵抗は,どちらが良い指標となりますか。
京谷 基本的には関連している指標なので,心拍出量を勘案すれば血管抵抗,勘案しなければ肺動脈圧になります。 ある程度肺動脈圧を下げるように改善できれば,肺血管抵抗も正常まではいかないものの比較的良い数値を維持できます。 たぶん,同じ指標をみていると思います。
松原 たしかにだいぶ重複していると思います。かなり低いところで設定するなら一緒だと思います。 私があえて血管抵抗と言わないのは,心拍出量だけ増えたのでは困るからです。 心拍出量の増加によって血管抵抗が下がって見えても,効果があったように誤解してはならないと考えています。 それで,平均肺動脈圧としているのですが,「心拍出量が減っても肺動脈は下がる」と曲解されることもあります。 だから今,「正常化」と言い始めたわけです。
佐藤 治療の流れについて,お願いしたいと思います。
国枝 原発性肺高血圧症(PPH)は非常に少ない病気で,年間発生率は人口 100 万人に 1〜2 人という割合です。 内服薬が使えるようになって,服薬中の患者は現在日本に約 4000 人おられます。 全員が PAH かというと必ずしもそうではありませんが,とにかく肺高血圧があれば薬剤が即座に使用できるようになりました。 明確な診断により始めにしっかりした治療方針を立てる必要がありますが,PH があればまず安易に経口薬を処方するといった現状があります。
私たち専門医としては,肺高血圧に関心が高まってきているのは良いことですが,肺疾患でも心臓疾患でも終局的には肺高血圧になるので, なんでも PAH とされては困ります。だから,今後はまず右心カテーテルを行って肺動脈圧を測定し, その原因の精査を心エコーの画像診断などを多角的に行って,心臓疾患あるいは肺疾患を診断あるいは除外していくのがよいのではないでしょうか。 どうしても,PH の診断上のしばりは増えると思います。
京谷 治療戦略として,中等症以下の場合,経口剤中心の治療がよいと思います。 すると,診断が少し不十分で,本来はあまり適応がないはずの症例にまで使われてしまうという懸念はたしかにありますが, 日本全体でみれば,肺高血圧への関心が高まり,PH の存在を広くスクリーニングして,診断していただけるようになってきていると思います。
ダナポイントのシンポジウムで提唱された治療アルゴリズムでは,推奨レベル A,B ないし C と, さまざまなエビデンスに基づいて分類されるようになりました。 しかし,各臨床試験に問題点がないわけではなく,試験における効果の程度が低いので,臨床でも効果がないと断定できません。 現在市販されている薬剤はおおむね良好な効果をもつと思いますので,推奨レベル A でないと使用できない,B レベルは避けるべきだなど, そういうことはなく,A でも B でも適応があると思います。
最重症例において,エポプロステノールは必要です。カテコラミンを併用して導入することが行われていますが, 現状では多剤を使うという選択肢も生まれてきつつあると思います。
松原 エビデンスに基づくガイドラインに関しては,A だろうと B だろうと,あまり差はないと思います。 1 つ問題なのはすべて単剤の話で,併用にはエビデンスがないからという理由で記載されていないことです。 われわれはよく「この薬だけでは不十分なので,次の薬剤に変えましょうか」と相談されますが, 作用機序がまったく違う薬剤であり,しかも対象になるのが致死的な疾患なので,併用を躊躇する必要はまったくないと考えています。
私たちは,内服薬に関して単剤のフルドーズより多剤併用を積極的に行っています。 これはダブルスタンダードになる懸念もありますが,自覚症状があまり重くない人には内服薬を処方し, エポプロステノール静注の治療ゴールよりも目標を少し甘くして,我慢しています。 というのは,ある程度以上の重症者には,最初からエポプロステノールを使用するので,そこまでのブリッジのつもりで内服薬を使用しているからです。 しかし,効果がないのに継続していると,病状が悪化する懸念もあるので, 3 剤までの併用を基本とし,半年〜 1 年で治療のステップアップを考慮することを原則としています。
佐藤 薬剤については特集の前半でも解説されていますので,ここでは特に注意すべきことについて,お話しいただけますか。
京谷 ベラプロストは残念ながら,単独療法ではそれほど強力な薬剤ではありませんが, 著効例はないわけではなく,安全性の高い薬剤なので,第一選択薬として使いやすいのではないかと思います。 投与開始後も慎重に経過観察して,効果が十分かどうか,適切に判断し,不十分なら他剤との併用を検討していただくとよいのではないかと思います。 ベラプロストやその他のプロスタノイド,PDE−V阻害薬は,いずれも顔面紅潮や頭痛,拍動感など,血管拡張による副作用症状が出やすい薬剤なので, 単独治療でも比較的少量から慎重に導入しないと,患者が受容できない場合もあります。また,併用も慎重に行う必要があります。
松原 静注薬は,内服薬と異なり,かなりの負担を患者さんに強いることになります。 それに見合うだけの結果を出す必要があると考えているので,静注薬ではゴールを高く設定するようにしています。 静注薬使用の早期開始が早期改善につながると考えていますが,患者への負担を考えると,毎日家で薬を溶くのは大変ですし, 感染の恐れやポンプにまつわる種々のトラブルもあります。それらを考えると,内服で継続する時間がやはり長いと思います。 以前ほど,簡単には使っていません。
佐藤 エポプロステノールはいつから開始するのがよいでしょうか。
松原 NYHA III 度の患者で,内服薬を使用しても心係数 2 を超えない場合に変更します。 また,他院からの患者さんは,他の薬剤を使用して半年が経っても肺動脈圧が下がらないなどの理由から紹介されてくることが多いです。 血行動態のかなり悪い場合には,内服薬だけでは著明な改善を得るのは難しいと思います。 いちおう内服 PGI2 から追加を始めますが,内服薬を足しても改善がみられない場合には, 短期,つまり 1〜2 週間でエポプロステノールに切り替えます。そして,内服 PGI2 は即座に中止します。 ただ,中途半端な症例,たとえば,平均肺動脈圧が 40 mmHg 以下で心係数も 2 ぐらいでは,どちらがよいのか,判断が難しいです。 そういう場合にはタイミングをつかむ必要があるので,内服で様子をみながら,できるだけ多剤を併用し,それでも改善がみられない場合, 1 年以上継続しないことにしています。
国枝 エポプロステノールの開発当初は速性耐性(tachyphylaxis)があるといわれ, 用量を徐々に増やさないと同じ効果が期待できないとされましたが,現在では考え方が変わり,7〜8 年間使用したら, 減量することも可能だと思います。このようにエポプロステノールはきわめて有効なので,早く導入して血行動態を早く改善させて, 薬剤を減量していくほうが,患者さんのためにも医療経済からみても良いと考えます。
佐藤 使い方に関し,具体的にご教示ください。
松原 率直に言えば,できるだけ早く,休まずに,血行動態の改善が得られるところまで増やしていくことです。 入院中は重症なので徐々にしか使えませんから,0.2〜0.5 ng/kg/分から始めます。 血行動態が安定してきたら 1 日に 1 ng/kg/分ずつ増やし,3 週間後の退院時には 15〜20 ng/kg/分にしています。 その後,最初の 1 か月は月に 5 あるいは 6 ng/kg/分,その後約半年間は,毎月 4 ng/kg/分増やしていきます。 そのころから下痢が強くなったり,足が痛くなったりするので,そこから先は耐えられる上限が月に 2 ng/kg/分程度なので, このペースの増量で血行動態の改善をねらいます。最近の傾向では,半年でかなり良くなっています。
京谷 基本的には同じですが,その裏返しで言いますと,患者さんはあまり薬量が増えることを望まれず, 用量依存性の副作用で顔面紅潮や頭痛が出るので,あまり増やしたくないとおっしゃる方が多くおられます。 患者さんは楽になったから治療効果は十分であると判断し,増量をためらわれたり, 「ふらつく」,「血圧が下がった」などと言われて主治医が心配で増量できずに一定量でとどまっていたりすることが, 私が受ける相談ではかなり多いという印象があります。血行動態が改善するところまでしっかり増量して治療をしないと,結局 PGI2を使っても, 薬剤のポテンシャルを生かせないということになります。
国枝 エポプロステノールはやはり導入が難しい薬剤で市販された当初には導入に失敗して, 全然効かないという報告も一部にはありました。ですから,導入はかなり慎重に専門家が行わないといけないと思います。 まずは原則,急性心不全には禁忌です。
京谷 安定維持期に注意すべきことは,安定しているはずなのに,心不全傾向,たとえば BNP の増加や ,頻拍傾向になったりするのは,病気の進行ではなく,心不全増悪因子が原因であることが多いので,注意が必要です。 もともと IPH には甲状腺疾患の合併は多いので,甲状腺機能亢進には注意してほしいと思います。 また,エポプロステノール治療中では,弱毒菌のカテーテル血流感染の可能性もあります。 しばしば起きることがわかっていますので,安定維持期には,この 2 点に注意することが大事です。
京谷 ボセンタンには細胞増殖抑制作用があると言われていて, 軽症例にも早期から,肺高血圧を見つけたら即座に使用してよいという意見があります。 私は必ずしも反対はしませんが,ボセンタンには催奇形性が懸念されています。 もちろん,肺高血圧症では妊娠出産は原則禁忌ですが,軽症例であれば妊娠出産が不可能ではないので, そういった症例への投与には注意する必要はあります。
松原 併用薬としては非常に良い薬だとは思いますが,単剤での劇的な効果は経験したことがありません。 この薬剤だけでは治療を完結できないというように考えています。ベラプロストと同様,併用薬として考えています。
国枝 ボセンタンは経口なので,先に使う場合が多いですが, どうもエポプロステノールの先行が良いのではないかと思います。肺高血圧自体の病因などを考えると,推論の域は出ませんが, エンドセリン系が発症に関係する可能性があるので,この薬がかなりのところを抑えていることも考えられます。 エポプロステノールでの長期安定管理中,エンドセリンでエポプロステノールを減量できるのと同様の作用で, ボセンタンでエポプロステノールの長期大量投与の減量が可能ではないかという気もしています。
京谷 ボセンタンには,他のクラスの薬剤と異なる特長があります。 1 つは,ボセンタンは倦怠感の出現や歩行距離の短縮などの自覚症状の改善が優れているような印象をもっています。 逆に言えば,客観的な指標,血行動態などが悪化しても,患者さんは比較的症状が良い状態を保てていると強く訴えることが多いということです。 ボセンタン治療では,効果が不十分だからエポプロステノール治療に移行しようとの判断が遅れがちになります。 その注意が必要だと思います。
もう 1 つは,BNP は治療効果のモニタリングに有用な指標だと思いますが,特にボセンタンでの治療中は, 治療効果が上がっていても高止まりすることがあるので,BNP が下がらないからといって必ずしも効果がないとは言えません。 そこにも少し注意が必要です。
佐藤 シルデナフィルとタダラフィルについては,いかがでしょうか。
松原 シルデナフィルは良い薬で,スワンガンツモニターしながら服用してもらうと, 肺動脈圧はかなり低下します。けれども,あまりにも作用時間が短く,急速に血中濃度がピークに達するので, 頭痛が現れやすく,他剤との併用が難しいです。PGI2をかなり大量に使用している患者さんに投与すると, ことに激しい頭痛が出ますので,なかなか併用ができません。徐放性になるとよいと思います。
佐藤 その点,タダラフィルはその欠点を補うものと言えそうですか。
松原 だいたいシルデナフィルは服用してから 1 時間で副作用が出始めます。 タダラフィルの場合には,2 時間後以降です。起き始めは弱いけれど,出てくるとやはり同様な副作用が現れます。 ただ,異なることは,単回の内服でも翌日の昼くらいまで効果が続くので,これも他剤との併用を考えると,かなり早期から服用していないと, 途中からは他剤を減らす必要が出てきます。逆に言うと,減らせるということでもありますが。
タダラフィルに関しては実験データしかみていませんが,肺移植後の再灌流性障害を抑えるというレポートがあって, 少し注目しています。カテーテル治療後に良いかもしれません。TNF−γを抑える効果も期待されています。
佐藤 私の印象も,松原先生とほぼ同じです。短時間作用型なので,1 日 5,6 回という使い方になり, 保険適用の範囲を超えてしまいます。
松原 逆に言うと,十分な効果のためには,頻回内服するしかありません。
京谷 私の印象では,PDE−V阻害薬,シルデナフィルもタダラフィルも同様ですが, 効果の個人差がかなり激しいようです。エポプロステノールでは,効果が乏しい症例でもある程度の効果はみられます。 ボセンタンもある程度どの症例にも効きますが,シルデナフィルは効果のない症例もみられます。 ただ,その逆に著効する例もあります。その作用機序に,病態に関わる大事なポイントがあるのではないかと思います。
プロスタノイドとの併用は,副作用が強く出やすいので難しく,シルデナフィルを治療に併用する場合には, 私どもでは 1 回 2.5 mg ないし 5 mg で,1 日 1 回あるいは 2 回で,少量からゆっくりと始めます。 それでも強い副作用が出たりしますが,何日間かすれば徐々に治まってくるので,徐々に増量していきます。 ただ,十分に増量しきれなくて,せいぜい 1 回 5 mg 程度のシルデナフィルしか投与できない症例でも, 肺高血圧に対して,画期的に効果が現れることもあります。エポプロステノールの単剤療法では重篤なままで治療に難渋していたにもかかわらず, 1 回 5 mg のわずかなシルデナフィル投与の追加で効果があったという症例をすでに何例か経験しています。
国枝 エポプロステノールは急性期に効果がなくても慢性期に効いてきます。 一方シルデナフィルは,慢性期の効果は不明ですが,急性期に効果があることはよく知られています。 ともに肺動脈圧を下げるなど,好ましい効果が出てきますが,この場合 NO 系と PGI2 系の作用が根本的に同じなのか異なるのかが大問題で, 将来的課題です。前からいろいろと考えていますが,PH に対する薬剤の機序は,慢性期に肺血管を拡張しリモデリングを改善しないといけないので, PDE−V 阻害薬(NO 系)に関してはもう少し長期に観察する必要があると思います。
松原 私たちの経験からおおまかに言うと,IPAH が疑われる人と, PVOD および PCH が疑われる人とでは,効果がまったく二分されます。IPAH 症例に関しては最初の約半年は劇的な効果があります。 ですが,その後に効果が失われるような印象があります。
投与量は最近,当初の 100 mg を 1 か月経過した時点で 200 mg まで増やす場合がほとんどです。 それでも効果はあまり長続きしません。一方,PVOD および PCH が疑われている症例では, 200〜300 mg まで増量でき,1〜2 年後も良い効果が続きます。作用機序はまだ十分に解明できていませんが, 可能性として次の 2 つが考えられます。イマチニブで救命できなかった PH 症例の剖検では, 中膜平滑筋の増殖をほとんど認めずに,むしろ内皮ばかりでした。もともとそういうケースだったから効かなかったのか, あるいは最初は効いたので,内皮の増殖をさらに抑制するような, 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)もブロックするタイプのチロシンカイネースのほうがより効果があるのではないかと,まず考えられます。
もう 1 つは,イマチニブの作用機序に関して,血管成分に対してアポトーシスを誘導する効果は,血小板由来成長因子(PDGF)の存在下でないと発揮で きません。イマチニブは受容体を遮断するだけではなく,PDGF の産生も抑制してしまうので,投与後にある程度の時間がたつと, PDGF 自体が枯渇したような状態になり,薬の効果が出なくなる可能性も考えられます。 そのため,IPAH に対する使用なら抗がん剤のような使い方, つまり,ある一定期間使用したら中断し,時間をおいてからまた使うというやり方でいくのか, あるいは他の種類の治療に変えていくのかを選択する必要があると思います。 PVOD および PCH に関してはある程度の量を使用すると,かなり劇的な効果があります。
佐藤 副作用は,いかがでしょうか。
松原 嘔気・嘔吐,それに胃腸障害が主です。量を増やせない方が 1〜2 割います。 全然服用できないというわけではありませんが,100 mg 以上に増やせない人が多いです。 それから,水分貯留は全体の 1/3 程度でみられ,かなり高頻度です。利尿薬を相当増やさないと,心不全でなくても水が溜まってきます。
肝機能に関しては,われわれのところで使ったケースはほとんどアルカリフォスファターゼと LDH が上昇しましたが, トランスアミナーゼが上がった人はいません。腎障害で 1 例,クレアチニンと尿酸がたまって継続できなかった人はいますが, それ以外の臓器障害は経験がありません。抗がん剤の一般的な先入観のように,のんだら髪の毛が抜けて,吐き気がひどくて,という印象ではないです。
京谷 治験が終了し承認待ちの状況にあるアンブリセンタンについて,追加します。 ボセンタンは,エンドセリンの A 受容体と B 受容体の両方を遮断します。 もともと AB 両受容体は平滑筋内で,肺高血圧を促進する方向と退行する方向に拮抗的に働くとされており, 心不全,肺高血圧といった状態になると,両受容体とも肺高血圧を悪化させる方向に協調的に働いてしまい, 両方とも遮断する必要があると言われていました。アンブリセンタンは,A 受容体の選択的拮抗薬ですが,臨床的に十分によく効きます。 ボセンタンに比べ肝障害がほぼゼロなので,今後有望な治療法になると期待されています。 言い換えれば,B 受容体遮断作用がないことが,良いことか,悪いことかは現状では不明ですが, 今後判明すれば,その後の新薬開発につながると注目しています。
佐藤 本日は,貴重なご発言,ありがとうございました。