百村 非常にいろいろな話が出てきて興味は尽きませんが,これからの課題や方向性などを述べていただきたいと思います。
清野 マーカーにはそれぞれの長所があります。 細胞質可溶性分画の H-FABP(全血迅速法)は日本で開発され,発症後 1〜2 時間で 8 割以上の症例が診断できます。 一方,TnT は特異度が極めて高く,また,極めて簡便な全血迅速法が普及しています。 それから,いままでは心不全のマーカーだった BNP や N 末端プロ BNP などは,虚血性心機能障害の潜在や進展などを評価できる可能性があります。 マーカーは,次の段階として早期治療の効率化に連携していくことが非常に大事なので,それが課題だと思います。
石田 核医学では,急性冠動脈症候群の発生メカニズムとしての冠動脈不安定プラークの検出が最近非常に注目されています。 プラーク内へのマクロファージの浸潤を18F-FDG によって観察できることが内頸動脈で証明されたことに端を発しているようです。 しかし,内径 3 mm の冠動脈の動脈硬化を描出するには,SPECT は当然ながら PET でも分解能の点から極めて困難です。 カテーテル先端に装着した検出器で冠動脈プラークに集積した18F-FDG を検出する試みが行われていますが, やはり画像化することが重要であるため核医学装置の分解能の向上が必要です。 小動物用の分解能 2 mm というマイクロ PET が開発されてきていますので,今後に期待したいところです。
前原 私は血管内超音波法(intravascular ultrasound:IVUS)をライフワークとしておりまして,たくさんの冠動脈の動脈硬化をみてきました。 たとえば血管造影上,正常対照部の部分でも,IVUS で観察すればその 90%の部分にプラークが存在することがわかります。 それだけ虚血性心疾患(動脈硬化)が起こる年代では冠動脈はプラークだらけなのです(笑)。 不安定狭心症や急性心筋梗塞などの急性冠疾患症候群は,少ないプラークの部分からも起こりえます。 MRI や CT でそこまで非侵襲的に行うには,まだ道のりがあると思いますが, 今後は vulnerability(プラークの不安定さ,破綻しやすさ)の予測に向かっていくのが画像診断の進むべき道だと思います。
百村 今日はそれぞれのお立場から豊富な知識と洞察に基づいた議論を展開していただき,ありがとうございました。