>   >   >  Framingham研究
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第1章
現在も継続されている大規模住民研究

 Framingham研究は,第二次世界大戦終了後の間もない1948年,心血管合併症増加への対応を検討するため,米国公衆衛生局のNational Heart Instituteは米国北部の住民28000人の町,Framingham市(Massachusetts州)において大規模前向き研究(Thomas Dawber監修)を企画し,その開始を決定した。当時の同研究の決定は,現在においても高い先見性を示したものと評価される。

 研究目的は米国式都市生活者の心血管合併症に先行する因子と,その自然歴を検討するためのものであった。Framingham研究では同市の住民(29〜69歳)の2/3が調査に応じ,さらに志願者も加えられ,冠動脈疾患のない5127例を2年ごとに追跡した(Dawber TRら,1959) 7)7) Dawber TR, Kannel WB, Revotskie N, Stokes J V, Kagan A, Gordon T. Some factors associated with the development of coronary heart disease: six years' follow-up experience in the Framingham study. Am J Pub Health 1959; 49: 1349-56.。同研究の対象は第一世代のコホートのみならず第二世代(off-spring)をも加え,21世紀においても追跡調査が進行中である。

 研究開始時には,虚血性心疾患の危険因子はほとんど知られていなかった。このため,初回の調査項目として既往歴,身体所見,生活習慣,血圧,心電図,血清総cholesterol,血糖,Hb,社会経済的指標(居住地域,教育歴,出生国,喫煙)を採用し,その後,検査項目が追加された。初回調査時には有力な危険因子と予測されない因子が,後に検討すべき因子となる可能性に備え,血清の凍結保存が行われた。なお,冠動脈疾患の診断は(1)心筋梗塞の既往/心電図所見,(2)狭心症,(3)冠動脈疾患を示唆する状況下の突然死とした。予後に関する情報は剖検所見,地域医療機関の診療録,死亡診断書に基づいて系統的に収集・整理し冠動脈疾患,脳卒中などの発症を悉皆的に把握するように務めた。

 冠動脈疾患のような慢性疾患発症の縦断調査では,種々の変数の影響を検討するには従来の感染症などで用いた手法は実際的でないとの見地からFramingham研究では多変量解析などが応用された(Truett Jら,1967) 8)8) Truett J, Cornfield J, Kannel W. Amultivariate analysis of the risk of coronary heart disease in Framingham. J Chronic Dis 1967; 20: 511-24.

  Framingham研究成績は,臨床医の経験に基づいた見解と一致し,これを支持する成績が多かったが,一方,従来の定説に対し反論となるような調査結果も少なくなかった。同研究において心血管疾患を合併しない第一世代および第二世代も加えた5573例の検討で危険因子(血圧,総cholesterol,喫煙,耐糖能,左室肥大)が複合すると,冠動脈疾患の危険度が高くなると報告され(Anderson KMら,1991) 9)9) Anderson KM, Odell PM, Wilson PWF, Kannel WB. Cardiovascular disease risk profiles. Am Heart J 1991; 121: 293-8.,家族歴に関する調査においても両親に冠動脈疾患死があれば冠動脈疾患の危険度が29%上昇すると報告され,その重要性を指摘している(Myers RHら,1990) 10)10) Myers RH, Kiely DK, Cupples LA, Kannel WB. Parental history is an independent risk factor for coronary heart disease: the Framingham Study. Am Heart J 1990; 120: 963-9.

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