■治療学・座談会■
今後の抗血栓療法を考える
出席者(発言順)
(司会)後藤信哉 氏(東海大学医学部 内科学系(循環器内科))
河村朗夫 氏(慶應義塾大学医学部 循環器内科)
是恒之宏 氏(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
一色高明 氏(帝京大学医学部附属病院 循環器内科)

次世代の薬物への期待

■P2Y12阻害薬とトロンビン受容体阻害薬

後藤 次世代の抗血栓薬についてはいかがでしょうか。何に期待されていますか。

一色 治験中のプラスグレルはすでに海外では使われていて,日本でも近い将来,使用可能になると思います。 また,最近報告されたタイクグレラーはこれまでの薬と機序が異なり,可逆的な P2Y12の阻害薬です。 この可逆性が魅力的で,先ほど話題になったブリッジングにおいてかなり有用性が期待できます。

 ただ新薬においても,出血性合併症とそのリスクの調整は常に存在すると思いますから,日本人のデータを慎重に検討する必要があると思います。

後藤 P2Y12の阻害薬は,P2Y12欠損症では出血するので,そうならないよう適当なところを見つけていく必要がありますね。 トロンビン受容体の阻害薬もかなりデータが開示されてきていますが,これについてはどうでしょうか。

一色 現在治験が行われていますが,今の併用薬に上乗せするのか, それともチエノピリジンの代替薬として使えるのか,そのあたりの位置付けが難しいと思います。 たとえば,急性冠症候群(ACS)のようなハイリスク患者に一定期間上乗せするのはよいと思いますが, 全体としての位置付けを決めるにはもう少し時間が必要だと考えています。

河村 トロンビン受容体阻害薬は,米国ではバイバルディンが認可されていて,私も使った経験があります。 用量調節が不要で,出血性合併症もヘパリンに比べ少なく,日本でも使いたいと思っています。ヘパリン起因性血小板減少症患者にも有効かもしれません。

後藤 トロンビンと抗トロンビン薬結合部位は 2 か所あって,日本ではその一方に結合するアルガトロバンが使えます。 選択肢は多いほうがよいのですが,バイバルディンは,日本人ではどうでしょうか。

■新規抗凝固薬

後藤 いま抗凝固薬の開発が盛んですが,どのような状況でしょうか。

是恒 ここ数年で,抗トロンビン薬も X a 阻害薬も認可され始めると思います。 それらの最大のメリットは食べ物の影響が少ないことで,納豆や緑の濃い野菜など,ビタミン K の含まれている食物も摂取できるようになります。

 もう 1 つのメリットは,薬の効果が即座に現れることです。また,服薬を中止すれば,薬効は即座に低下します。 したがって,周術期の入院で,在院日数を短縮できるかと思います。

 ただ,治験ではコンプライアンスの良い患者ばかりを集めているので,実態は,薬が市販されてから確認していく必要があります。

一色 血小板凝集塊にはプロコアグラント活性がありますから,抗凝固薬を用いることは理にかなっていると思います。

 どの薬とどのように併用すればアウトカムが良くなるのか。その場合に出血性合併症が増加しないことが重要です。

河村 ステント血栓症の予防や,プラスグレルに関しても, どういうリスクや背景をもった患者かということで議論が違ってくると思います。 左冠状動脈のステントや複数のステントを入れていたり,透析患者であったりと,層別化を行い,テーラーメイド治療を行うのですが, 一律にこうするというのではなく,医者の裁量が残されるべきだと思います。

後藤 河村先生は米国で実際に臨床をされていましたが, 米国の考え方はあらかじめ設定した枠の中で良し悪しを議論しようというもので, われわれの状況対応型文化とも言えるものとの違いは,よくわかりますね。

河村 日本のほうが,患者本位だと思います。

後藤 日本の医療は,米国を参考にして行ってきましたが,いつの間にか追い抜き,質は世界の最高に近くなっているように思います。 本日は,どうもありがとうございました。

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