■治療学・座談会■
わが国の現状とその対策
出席者(発言順)
(司会)河田純男 氏(山形大学医学部消化器内科学)
小野正文 氏(高知大学医学部消化器内科)
角田圭雄 氏(市立奈良病院消化器肝臓病センター)
田村信司 氏(箕面市立病院)

非アルコール性脂肪肝炎とはどういうものか

■NAFLD の重症型としての NASH

河田 近年,食事の欧米化や,交通機関の発達や電化製品の利用による運動不足から,肥満が増え,それに伴い脂肪肝が増加しています。 今まで脂肪肝は予後は良好だと考えられてきましたが, 肝硬変,肝癌への進展が懸念される非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の存在が明らかになり,注目を集めています。 そこで本日は,わが国における NASH の現状と対策について,お話をうかがっていきたいと思います。

 肝臓への脂肪沈着を脂肪性肝疾患と総称し,大きくアルコール性と非アルコール性に分けられています。 小野正文先生,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)とは,どのような疾患なのでしょうか。

小野 一般に,肝臓に脂肪沈着があり血清トランスアミナーゼ(ALT・AST)値が上昇している病態を,NAFLD とよんでいます。 以前は肝組織の 1/3 以上の脂肪沈着を認めるものとしていましたが,最近では 10%以上と改められました。

 また,NASH の定義としては,肝細胞の風船様腫大や Mallory−Denk 小体の出現,炎症性細胞浸潤,線維化という特徴的な肝組織像がある, NAFLD の進行性の病態が NASH であると考えられています。

河田 最近,健診などで肝機能異常がみつかることが増え, そのほとんどが NAFLD,いわゆる「脂肪肝」と診断されているようです。人口に占める割合は明らかになっているのでしょうか。

小野 高知県と欧米のデータを参考にして推定すると,人口の約 10%が NAFLD,さらにその 10%が NASH だと考えられます。 NASH に関しての国内の正確なデータはありませんが,総人口の約 1%といわれています。 昨今の肥満人口の増加を考えると,今後の増加が危惧されています。

■アルコール性と非アルコール性の鑑別

河田 非アルコール性とは,飲酒との関係でどのようにとらえられるのでしょうか。

小野 NAFLD の診断では,1 日 20 g 未満の飲酒と定義されています。

河田 それでは,角田圭雄先生,1 日 20 g 以上の飲酒習慣があり, かつ脂肪沈着をみとめる場合には「アルコール性」としてよいのでしょうか。

角田 欧米のガイドラインなどでも,20 g/日未満と規定されていますが,実際にはアルコール性脂肪肝と, 非アルコール性脂肪肝が重複することもあり,その線引きについては今後の課題であります。

河田 田村信司先生,いかがでしょうか。

田村 病態から考えてもほとんど重なっていて,きっぱりと分けることはきわめて困難です。 しかし,アルコールの影響が強く出ることは間違いないので,アルコール摂取量を 20 g で区切ってよいのではないでしょうか。

小野 私も,NAFLD の診断については,20 g で厳格に区切るべきだと思います。 しかし,実際の臨床現場では,患者さんには,“減量プラス飲酒制限”が必要で,NAFLD がメタボリックシンドロームの一症状であると, 理解してもらえるよう指導することも重要だと思います。

角田 最近,女性には若干厳しくすべきであるという指摘もあり,女性は 10 g 未満と提案しているガイドラインもあります。男女差についても,今後の検討課題だと思います。

小野 20 g 未満の飲酒の影響についても,データが十分ではありませんので,今後はそこも明らかにしていく必要はありますね。

■炎症と線維化の評価

河田 NAFLD から肝硬変,肝癌に進行するリスクは,どの程度と考えられていますか。

田村 ガイドラインでは,NASH の 5〜20%が肝硬変へ進行する可能性があるとされています。

角田 最近のデータでは,肝癌発症は約 7%といわれています。

河田 日常診療において,NASH の診断の際に,特に留意されている点はありますか。必ず肝生検を必要とするのでしょうか。

角田 画像診断に関して,対象となる患者の選定や,画像診断を施行する頻度が問題になります。この判断に,いつも悩んでいます。

小野 肝癌の発症は一般に線維化が進行した NASH の場合が多いようですので,進行例については, C 型慢性肝炎と同様に定期的な画像検査が必要だと思います。 しかし,その実施は私自身もなかなか難しいです。 なぜなら,線維化の進行は,線維化マーカーを含む血液検査や画像検査などではわかりにくいという問題があるからです。

河田 そうすると,肝生検を行うことが望ましいと考えられますが,先生方はどういう条件があると肝生検を行っていますか。

田村 学問的かどうかはわかりませんが,まずは生活指導を行ったうえで,体重が減ったにもかかわらず, AST・ALT 値の低下具合が悪いなど,なんらかの炎症や病態の進展が疑われるときに,患者に強くすすめています。 また,血小板などのマーカーや画像診断で肝硬変を強く示唆するような場合です。

小野 確かにそうなのですが, 実は先日,単純性脂肪肝という診断で他院にて長期フォローをされていた患者さんが吐血で入院されました。 原因は NASH 肝硬変による食道静脈瘤破裂でしたが,その時でも血小板は 16 万/mm3ほどあったのです。 ですから,ウイルス性肝炎と異なり,NASH の場合には,肝硬変への進展は,肝組織をみないとわからないということは決して珍しくありません。 画像検査でもはっきりしないこともあり,良い指標があればと,いつも痛感しています。

河田 一般には,肝生検以外の指標による NASH の診断法が期待されています。そのあたりはいかがでしょうか。

角田 NAFLD で進行例を予測するために,種々のスコアリングシステムが提唱されています。 たとえば BAAT Score は,BMI(体格指数),年齢,ALT,TG(トリグリセライド)などの値から予測する方法で, 他に 6 つのパラメータからなる Fibro Test があります。国内では,長崎のグループが 6 施設の共同研究で発表した N Score があります。 それは,性別,年齢,糖尿病や高血圧の合併の有無で評価するものです。 ほかにも,Hepatology 誌に報告された NAFLD Fibrosis Score や,ELF(enhanced liver fibrosis)Score といったものがあげられます。 最近 GUT 誌に報告され簡便で良いという印象を受けた評価法は,BMI 28 以上で 1 ポイント,AST/ALT 比が 0.8 以上で 2 ポイント, 糖尿病があると 1 ポイントの合計点(4 点満点)から判断し,2 ポイント以上あると F3 以上の可能性が高いというものでした。

 以前から,私たちも NASH を予測するマーカーを検討していましたが,多変量解析で,NASH に寄与する因子として最後に残った 3 つが, フェリチン(女性で 200 ng/mL 以上,男性で 300 ng/mL 以上),インスリン値(10μU/mL 以上), IV 型コラーゲン 7S(5 ng/mL 以上)でした。各項目を 1 点ずつとして合計点(3 点満点)から評価します。 頭文字をとり,前に NASH の NA をつけて NAFIC(ナフィック)と命名しました。0 点なら NASH の可能性は 10%以下, 2 点以上になると 9 割が NASH の可能性があります。ただ,こういった評価法は十分なバリデーションスタディが行われていないことが問題だと思っています。

田村 以前,糖尿病も加えたほうがよいのではないかという話でしたが……。

角田 そのとおりで,NAFIC の 1 点,すなわち 3 項目中で 1 項目だけ該当する人の 4 割は NASH の可能性があります。 逆に言うと,単純性脂肪肝が 6 割,そこをうまく判別したいということで, 糖尿病をさらに追加して 4 点満点とすると,うまく分けられることがわかっています。 全国の 8 施設(旭川医科大学,横浜市立大学,京都府立医科大学,大阪市立大学,広島大学,高知大学,佐賀大学,大阪府済生会吹田病院)と共同で, データを集めて再検討しているところです。

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