■治療学・座談会■
高齢社会における肺炎をどう診るか
出席者(発言順)
渡辺 彰
(東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門)
綿貫祐司 氏(横浜市立大学大学院病態免疫制御内科学)
中森祥隆 氏(国家公務員共済組合連合会三宿病院呼吸器科)
寺本信嗣 氏(国立病院機構東京病院呼吸器内科)

診断と治療

■自覚症状の有無

渡辺 肺炎の症状は,咳,痰と発熱,ときに胸痛,呼吸困難ですが,高齢者でも若い人とあまり変わりはないのでしょうか。

中森 以前,肺炎の主訴について調べたことがあります。若年者は,咳,痰,発熱のいずれかがあります。 特にマイコプラズマが多いので,痰よりも咳,または両方を多く訴えます。前期高齢者の約 9 割はそのうちのどれかが主訴になります。 ところが,80 歳以上の肺炎患者では,2 割程度は体温が 37℃以下ですが,熱のある 8 割のなかで熱が主訴となるのは約 5 割で,残りの 3 割の人は発熱に気づいていません。 PaO2が 60torr 以下の人で調べたところ,前期高齢者で 50%,80 歳以上で約 20%の人しか呼吸困難を自覚していませんでした。そのため,受診が遅れ,重症化するという危険性があります。

 最近は,老人保健施設からの受診も多いです。入所者は毎日定期的に検温をするので,受診が早くなっています。 一方在宅の人は,独居や老々暮らし,若い人と暮らしていても昼間は 1 人なので, 倒れてから発見される場合も多いです。症状の出ることが少なく,さらに家人も気がつかないという問題があります。

寺本 私は学生に,「元気がない」,「食欲がない」という高齢者を見つけたら,必ず一度は病院に連れてくるように, それが親孝行あるいは祖父母孝行だと,話しています。高齢者の肺炎は,来院時には明らかでなくても,点滴などで脱水が少し改善されたあたりからはっきりとしてきます。 患者自身もいつから具合が悪いのかわからず,成り立ちと症状がうまく一致しないので,どうしても非特異的という印象をもたれているように思います。

■低酸素血症に伴う他の臓器の異常

寺本 さらに高齢者では,肺炎面積が小さくても,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の下がり方が大きいことがわかっています。 低酸素血症になりやすく,そのため,尿失禁やけいれん,軽度の意識障害,いつもと違う変なことを話すなど,それらが肺炎を発見する契機となることもあります。 高齢者は,肺炎に関連する低酸素血症に伴って肺以外の臓器に異常を呈するようです。

渡辺 肺炎とは思えない症状もあるのですね。

寺本 はい。失禁により泌尿器科には連れていかれても,尿検査までで X 線撮像は行われません。 ここで,実地医家の先生にお願いしたいのは,無関係だと思われても,高齢者では X 線撮像を行っていただけるとありがたいです。

■クラミジア・ニューモニエが過半数

渡辺 特に誤嚥では,口腔内の常在菌が原因菌になることが多く,そのなかには嫌気性菌も含まれています。治療としてはいかがでしょうか。

寺本 調べてみると,誤嚥性肺炎はきちんと定義されておらず,その原因菌のデータはほとんどありません。 ただ,原因菌を強調してしまうと,特殊な肺炎という扱いになってしまい,高齢者の肺炎だから最初から最大限の治療をするということになりかねません。 当初は,通常の抗菌薬治療で十分,効果があります。嫌気性菌の肺炎は進行が緩徐なので,初期治療がうまくいかなかった場合に,治療を開始しても間に合います。

渡辺 嫌気性菌を念頭におくことは必要ですね。高齢者の場合,細菌性病原体,特に肺炎球菌などは非常に多いです。最近,非定型病原体が多いとされていますが……。

綿貫 非定型病原体の頻度は,一般の成人では 30〜40%,高齢者では 15%程度と言われています。 若い人ではマイコプラズマが中心で,高齢者ではクラミジア・ニューモニエが過半数を占めていると考えています。 報告によると,高齢者の肺炎の 1 割弱は,クラミジア・ニューモニエが原因とされています。

■市中肺炎と院内肺炎のガイドライン

渡辺 日本では日本呼吸器学会が,『成人市中肺炎診療ガイドライン』と『成人院内肺炎診療ガイドライン』の 2 つを作成しています。 私も作成委員のひとりでしたが,2 つに分けた理由は,普通に市民生活を送っている人が風邪をこじらせたり不顕性誤嚥をしたりして起こした肺炎と, 他の疾患の治療目的で入院した患者が併発する肺炎とでは,原因菌がかなり異なるからです。

 日本の市中肺炎ガイドラインの特徴は,病型の鑑別を提唱していることです。欧米とは異なり,肺炎を細菌性肺炎と非定型性肺炎に分けて考えます。これら 2 つに分けた理由をお願いします。

中森 それは,原因菌が異なることで,有効な抗菌薬の種類が違うからです。 細菌性肺炎は肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスなどによって起こり, 非定型性肺炎は肺炎マイコプラズマ,肺炎クラミジアなどによって起こるので,それぞれ有効な抗菌薬が異なります。 両方に効果をもつ薬剤もないわけではありませんが,そういう安易な使用法では,耐性菌をさらに生み出すという危険性があります。 原因菌に合わせた抗菌薬の使用は,特に若い人には非常に有意義です。

渡辺 ガイドラインでは,肺炎の重症度を A−DROP システムで判定し,どういう治療に進むかを考えます。 海外のガイドラインと比較して,日本の重症度の判定はいかがでしょうか。

寺本 欧米のものは米国感染症学会(IDSA)ガイドラインに代表されますが,集中治療までを含めた医療費全体を減らすという目的が背景にあるような気がします。 日本のようにすべての医師が肺炎診療を担っている状況とは少し異なっています。 現状でも不十分な点があるかもしれませんが,重症度が最も重要であることを意識するだけでも,肺炎治療はうまくいくと思います。 そういう意味で,海外に決して負けてはいません。

 ただ少し懸念されるのは,感染症専門医のなかの非常に若い先生方が,米国の知識を導入するのが正しいように誤解されていることです。 日本と米国では疾患体系が大きく違いますし,誤嚥性肺炎の診断が不可能な国の方法論を導入しても,わが国ではほとんど役に立たないと思います。 そのため,欧米のエビデンスが日本では必ずしも使えないという事実を皆で検証していかなければならないと考えています。

渡辺 そういう意味では,日本では日本で作成したガイドラインが役に立つのではないかと思われます。

■尿中抗原検査から始める

渡辺 中森先生,日常診療でどのような検査をされておられますか。

中森 実際の患者さんに,「痰の検査をしましょう」と言っても「今は痰が出ない」という人が非常に多いです。 尿中抗原検査は原則全例に施行しています。これは,前投薬があったとしても陽性に出ますし,高齢者でも採尿は可能です。 肺炎の原因菌の第 1 位であり,また重症になりやすい肺炎球菌の検出がかなりの頻度で可能なので,たいへん有用です。 もちろん,痰が出る人では痰のグラム染色や培養検査を行うことが必要だと思います。

 さらに高齢者では,低酸素状態に気づきにくいので,外来でサチュレーション(SpO2)を測定し,入院の適用なども考えていくとよいと思います。

 頻度は高くありませんが,白血球や CRP(C 反応性蛋白)が,受診時に上昇していないこともあり注意が必要です。 そこを配慮して判断し,X 線撮像も,肺炎の広がりやタイプなどの判定には必要です。

渡辺 若い先生方のなかには,CRP についての批判があるようですが……。

中森 肺炎の診断や治療効果をみるのに参考になる有用な検査のひとつだと思います。ウイルス感染かどうかのチェックにも有用だと思います。

寺本 高齢者にもよいと思っています。高齢者の場合はむしろ,「肺炎だったら,白血球は 1 万/μL 以上ありますし, CRP も必ず陽性になります」としたほうが,多くの先生方にはわかりやすいと思います。

 特に CRP については,海外ではあまり測定されていません。いったん上昇するとなかなか下がらないので,治療効果の判定には不向きかもしれませんが, 高齢者の肺炎診断ではデータは妥当だというのが,私の個人的な意見です。

渡辺 最近,原因微生物の迅速診断キットがだいぶ出てきていますが,いかがでしょうか。

綿貫 高齢者の肺炎では,誘因としてインフルエンザが重要です。インフルエンザの迅速診断キットは感度,特異度もかなり高いので, 高齢者では早めにこの迅速診断キットを使うことが重要だと思います。ただ,これも発熱から 5 時間以内では陽性になりにくいので,注意は必要です。

 肺炎の原因微生物を判定するキットが,肺炎球菌の尿中抗原検査です。高齢者の肺炎の最も主要な原因菌は肺炎球菌ですから,尿中抗原検査キットは非常に意義があります。

 その半面,高齢者の場合,以前に肺炎球菌感染症を起こした人ではかなり長期間にわたって尿中抗原陽性が続くこともありますし, 尿中抗原により肺炎球菌が原因だとわかっても,複数菌感染の場合もあります。そういうことにも考慮が必要です。

渡辺 非常に有用だが,それだけにとらわれるな,ですね。

綿貫 そうですね。また,迅速診断として,喀痰グラム染色は有用ですが,判定に経験を要するなど,普及にはなかなか難しい面もあります。 さらに,高齢者では“結核”を忘れてはなりません。特に下葉に起こった肺炎などには抗酸菌染色も迅速診断のひとつとして行うべきだと思っています。

■薬剤の選択

渡辺 原因療法として,抗菌薬療法をどのように進めていらっしゃいますか。

中森 もちろん原因菌を推定することが最も重要なのですが,エンピリックに高齢者肺炎の治療を開始する場合, 多くはβラクタマーゼ阻害薬とペニシリンの合剤を使っています。年齢により投与量を半分にすることもあります。 経過をみながら効果を判定していくのですが,有効であればそのまま続け,無効の場合には,痰の培養結果を参考にします。 痰がない場合,まず肺炎桿菌のことを想定し,第三・四世代セフェム系あるいはカルバペネム系抗菌薬に変更しています。

 レジオネラが原因である場合にはキノロン系注射剤を使います。原因菌が不明で,超重症というときには,キノロン系およびカルバペネム系抗菌薬の併用で開始します。 高齢者だから,最初から併用ということはあまりしていません。要は使い方で,服用間隔や処方量を適宜変更しています。

渡辺 最近は薬物動態学/薬力学(PK/PD)の考え方が非常に浸透してきましたね。 それによると,抗菌薬が効果を発揮するタイプは 2 つに分類できます。仮に 1 日の投与総量を同じにした場合,キノロン系抗菌薬やアミノ配糖体では, 臨床効果をより大きくするには 1 回量をなるべく多くして服用回数を少なくするほうがよいとされています。 もう 1 つは,逆に 1 回量は少なくても,投与回数を増やしたほうがよいという薬剤で,βラクタム系やマクロライド系抗菌薬です。 これまでは経験的にわかっていたことですが,それをきちんと説明できる理論が最近ようやく明らかになったのです。

■抗菌薬使用時の留意点

渡辺 薬物療法での注意点をお話しいただけますでしょうか。

綿貫 高齢者の多くは腎機能が低下しているため,血中半減期の延長や,尿中排泄率の低下,それに伴う蓄積などが懸念され, 80 歳以上では,CCr(クレアチニンクリアランス)が健康人の 1/2 未満というデータもあります。高齢者では,腎機能低下と,低体重に留意して,処方量を加減する必要があると思います。 腎排泄の強いニューキノロン系抗菌薬の,高齢者での AUC(薬物血中濃度−時間曲線下面積)をみると,健康成人の 2〜3 倍に上がっています。 そのため,副作用も強く出るので,投与量を 5〜7 割に減らすことになります。

 それから,服用回数も問題となります。半減期の長い 1 日 1 回投与の抗菌薬はよいのですが,半減期の短い抗菌薬では,本来は 1 日 3〜4 回の薬剤でも 2 回にする場合もあります。

 高齢者の肺炎では脱水症状なども起こるので,薬物療法としては,抗菌薬使用とともに脱水症状の補正,免疫や栄養などの全身管理が重要になると思います。 副作用に関しては,高齢者では出やすいうえに,患者自身からの訴えが少ないので,そこへの配慮も必要となります。

■反復する肺炎への対応

渡辺 高齢者の肺炎で最も頭を悩ませるのは,肺炎を反復する患者さんです。どう対応したら,よろしいでしょうか。

寺本 中森先生のご発言の繰り返しになるかもしれませんが,やはり全身疾患として扱うことが重要になります。 肺炎・肺だけを治療するのではなく,誤嚥も含めて意識レベルを改善する,GERD を予防する,などが必要です。特に GERD に対しては, 一時的にプロトンポンプ阻害薬を 1 ヵ月程度中止し,胃での殺菌効果を期待することなども考えられます。

 また,肺炎治療時から,口腔ケアの実施や嚥下機能の向上を,歯科医の先生や理学療法士の協力を得て実施していただくことが重要です。 そうでないと,肺炎自体の治りも非常に悪く,入院期間が延長することになります。流入してくる原因菌のほうにもアプローチをしないと, いったん退院されても,また入院されてくるというパターンになってしまうと思います。

中森 高齢者のほとんどが,退院時には ADL が入院前より低下しているという状況で,入退院を繰り返すうちに自宅へ退院できなくなります。 患者さんのレベルにもよりますが,呼吸機能の理学療法などにより,排痰や腹式呼吸などができるようになれば,呼吸機能の低下はかなり抑制できます。

 それから,意欲への配慮も重要です。誤嚥性肺炎を疑った場合にはどうしても数日間食事を止めることになります。 食事を止められ,ただ天井だけ見て寝ている状態では,患者さんの治ろうとする意欲も低下してしまいます。 他の人と接触をする機会を増やしたり,看護師さんにいろいろな世話を行ってもらったり,余裕があるときには呼吸リハビリテーションを依頼することなどが,重要な配慮かと思います。

 また,寝たきりでは褥瘡をつくりやすく,それらも治療を困難にします。全身の活動性,特に意欲を落とさないようにすることが重要だと思います。

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